いい機会
あれからはフェリシアンに睨まれはするものの、絡まれるようなことはなく、昼休憩の時間になった。
まぁ、一応さっさと教室は出ておくか。
最初の休憩時間以外は絡まれなかったけど、昼休憩は長いからな。
絡まれる可能性は全然あるし、さっさと出るに限る。
そうして教室を急いで出たわけだけど、フェルシアンは忌々しそうに俺を見てくるだけで、何か絡んでくることは無かった。
よく分からんけど、少なくとも今日はもう大丈夫って考えていいのかな。
……まぁ、普通に学食に行って昼食を食べに行くか。
この前は何故かイリーゼが弁当を作ってきてくれていたけど、今回は絶対弁当を作っている暇なんて無かっただろうし、大丈夫なはずだ。
そもそも、弁当があるだなんて言われてないしな。
「何を食べようかな」
そう思って、学食までやってきた俺は、呟くようにそう言った。
よくよく考えてみると、いつもイリーゼに弁当を作って貰ってたから、学食を使うのって初めてなんだよ。
だからこそ、案外種類が多くて何を買おうか迷う。
「お兄様、こんなところで何をやっているのですか?」
そうして色々と迷っていると、後ろからそんな声が聞こえてきた。
振り返るまでもない。イリーゼだ。
「学食の種類が案外多くてな。何を買おうか迷ってたんだよ」
「学食……? どうして、お兄様がそんなものを利用しようとする必要があるのですか? いつも通り、私のお弁当がありますよね? なのにどうして、私以外の人が作ったものを食べようとしているのですか? お兄様だって、そんなもの、食べたくないですよね?」
俺の言葉を聞いたイリーゼは何故か雰囲気を変えて、そう言ってきた。
やばい。俺、何か間違えたのか? ……流石に、人が多い学食なんかでイリーゼの魔力が暴走? するのはまずいぞ。
「い、イリーゼ、取り敢えず、落ち着こうな。……違ったら悪いんだが、今日も弁当を作ってきてくれているってことでいいのか?」
「……はい、そうです。お兄様のためにいつも通り、お弁当くらい作っています」
この前はなんで作ってくれたのかを分からなかったけど、少なくとも、今回は分かる。
もう仲直りをして、俺たちは仲のいい兄妹になったんだから、分かる。
ただ、いつ作ったんだ? 朝は俺と一緒にいたはずだよな? 一応、俺が起きるより早くイリーゼは起きていて、その時間に作っていた、という可能性はあるが、弁当を持ってきている様子なんて無かったよな? ……今思えば、あの日だって弁当を持ってきている様子なんてなかったぞ。
……どうやって持ってきてるんだよ。
「もちろん、食べてくれますよね?」
「え、あ、あぁ、そう、だな。もちろんイリーゼが作ってくれた弁当を食べるよ」
そんな疑問を胸に抱えつつも、俺はそれを飲み込んで、そう言った。
今は余計な質問をするより、早く頷く方がいいと思ったからだ。
「学食……で食べるか」
「はい、お兄様」
今は他の奴らにも俺たちはもう仲直りをしたんだと見せたかったし、ちょっとイリーゼの雰囲気が怖かったけど、よく考えたらいい機会だな。
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