全く分からない

 ……よし、なんかフェリシアンにまた睨まれてる気がするけど、授業が始まるギリギリに教室に入ったから、絡まれなかったぞ。

 ……まぁ、睨んできてるってことは、授業終わりが怖いけど、直ぐに教室から逃げ出して、また授業が始まるギリギリに教室に入ってきたら大丈夫だろう。……多分。




 そうして、授業を受けていると、当然、授業は終わりを迎える。


「おい、待て!」


 担当だった先生が出ていくと同時に、俺も教室を出ようと動きだしていたんだが、後ろからそんな感じにフェリシアンに声をかけられてしまった。

 無視……は身分的に出来ないな。

 声量的にも、聞こえていなかったことになんて出来そうにないしな。


「はい、なんでしょうか? フェリシアン様」


「なんだでは無い! どういうことだ!」


 ……何が? 

 ダメだ。フェリシアンが一体なんのことで怒っているのかが全く分からない。

 ……この前家に来た時、イリーゼがまた失礼な態度でも取って、俺に怒ってるのか? ……確かに、この前教育しておくって言ったもんな。

 ……いや、違うか。あの時はなんか俺が予め命令していた、みたいなことになってたんだ。……つまり、今回もそんな勘違いをして、俺に怒ってきてるってことか。


「申し訳ありませんが、何に対して怒っていらっしゃるのかを教えて頂かなくては、何も分かりません」


 そう思いながらも、一応違う可能性も考慮して、俺はそう聞いた。

 違ったら違ったでまた怒るかもだし、もうこうやって聞くのが一番穏便に済むと思ったんだよ。


「お前はふざけているのか! 俺が怒っている訳かど、一つしかないであろう!」


 だからそれを分からないって言ってるんだよ。

 

「イリーゼの件だ」


「……はい。イリーゼがどうか致しましたか?」


「しらばっくれるな! 俺はこの前、お前の……侯爵の家に邪魔をしたんだ」


「はい、知っています」


 何をしたのかは知らないが、フェリシアンのせいでイリーゼの機嫌が悪かったのを覚えているからな。


「ならば分かるだろう。お前がイリーゼにどんな命令をしたかを思い出してみろ」


 ……予想通り、また勘違いをしてたな。

 何度も言うけど、正直、分からない訳では無い。

 実際、少し前まではいじめをしていたんだからな。

 ただ、ちゃんとフェリシアンには今を見て欲しい。

 今を見てくれたのなら、俺がもういじめなんてしていなくて、普通にイリーゼと仲良くしているってことがすぐに分かるだろうからな。


「何も命令なんてしていませんよ」


「嘘をつくな! お前が命令していないというのなら、イリーゼのあの言動はどう説明するつもりだ!」


 ……あの言動って、俺、あの時イリーゼが何をフェリシアンに言ったのかとか知らないんだけど。

 ……もしも取り返しのつかないことを言っていた場合、フェリシアンのこの勘違いはありがたいのか。……イリーゼにヘイトが向くよりは、俺に向いている方がいいからな。

 一応次期当主なんだし、そういう意味では不味いのかもだけど、今となっては、そんなものより妹の方が大事だし。


「イリーゼがどのようなことを言ったのかは知りませんが、もしも失礼なことを言っていたのなら、申し訳ありません」


 イリーゼが取り返しのつかないことを言っていた場合はなんとか俺が頭を下げまくって許してもらおうと思って、俺はそう言った。


「お前、まだしらばっくれるつもりなのか」

 

 しらばっくれるも何も、本当に知らないんだよ。

 そう思っていると、次の授業をするために担当の先生が教室に入ってきた。

 良かった。取り敢えずではあるが、助かった。


「チッ。もういい、せいぜい覚悟しておくことだな」


「?」


 よく分からないけど、フェリシアンはそんな捨て台詞を吐きながら、自分の席に戻って行った。

 まぁ、気にしなくてもいいかな。フェリシアンも俺と同じで次期当主であって、現当主では無いからな。大したことは出来ないだろう。

 俺の親が男爵や子爵だったならともかく、侯爵だしな。

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