イリーゼがそんな嘘をつくメリットなんてないし
「お兄様、温かいです」
今、俺はイリーゼと一緒の布団に入り、一緒に眠りにつこうとしていた。
……全く眠れる気がしない。それどころか、心臓の音がイリーゼに聞こえていないかが不安になりすぎて気分が悪いような気までしてくる。
「……さ、寒くないのなら、良かった」
「お兄様、もう少しくっついても大丈夫ですか?」
「は? い、いや、それは、流石にまずいんじゃないか? 別に寒いわけでもないのなら、尚更さ」
ただでさえ色々と妹相手だと言うのに意識してしまっているのに、そんな薄いネグリジェでこれ以上近づかれたら俺の心臓が持たないし、理性だって持たないかもしれない。
だから、俺はそう言った。
せっかくイリーゼと仲直りが出来たっぽいのに、俺が我慢できなくなってまた関係が悪くなるのなんて絶対に嫌だからな。
「……寒いです」
「は? いや、さっき──」
「お兄様、寒いです。だから、温めてください」
……まぁ、そんな薄着だったら、寒いのも当然、なのか。……さっき温かいって言ってたのは、俺の聞き間違いかなにかだったんだろう。うん。
「分かったよ。服を持ってきてやるから、少し待っててくれ」
「そ、そうじゃありませんよ、お兄様。……その、お兄様の体で温めて欲しい……です」
は? 俺の、体……? いやいや、おかしいだろ。
百歩譲って、兄妹なんだし、一緒に寝るのは普通……なんだと思う。イリーゼがそう言ってたしな。
ただ、体を温めるっていうのは絶対違うだろ。
だって、この状況で俺がイリーゼを温めるってあれ、だろ? 人肌で、ってこと、だろ? ……これが俺の勘違いなら、ただ俺がキモイだけで終わるんだけど、それ以外にイリーゼを温める方法なんて思いつかないんだよ。
「お兄様、もしかして、まだダメ、ですか?」
「……これも普通のこと、なのか?」
「はい、まだ少し恥ずかしいですけど、普通ですよ」
……ありえないだろ。……いや、でも、イリーゼがそんな嘘をつくメリットなんて無いと思うし、本当、なのか?
……もしも本当なんだとしたら、ここで断るのは不味いよな。……せっかく仲直りが出来たのに、ここで断ったら、俺がまだイリーゼのことを嫌っている……というか、よく思ってないみたいに思われてしまう。
「わ、かったよ。……ほ、ほら、これで大丈夫か?」
そう思った俺は、イリーゼの「普通です」という言葉を信じて、なるべく変なところに触らないようにしながら、俺はイリーゼの体を抱きしめた。
……え? ほんとにこれでいいんだよな?
「ありがとうございます、お兄様。温かいです」
「そ、そうか。……それなら、良かったよ」
「お兄様も、温かいですか?」
「え、あ、あぁ、俺も、まぁ、寒くは無いよ」
恥ずかしさでかなり熱いけど、寒い訳では無いから、俺は声が振るえないようにして、なんとかそう言った。
「良かったです。……お兄様、おやすみなさい」
「……あぁ、おやすみ、イリーゼ」
変に意識してしまうのなら、さっさと眠ってしまえばいい。
そう思って、俺は目を閉じた。
……眠れる気がしないけど、こうやって目を閉じていれば、いつかは眠れるはずだ。
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