俺が間違ってるのか?

 あの凍ってた部屋が溶けた後、俺は必死にメイドに口止めをした。

 俺の小遣いの中からではあるけど、口止め料だって渡した。

 これにどれだけの意味があるかは分からないけど、今の俺に出来ることはそれだけだ。

 だから、後はあのメイド達が母様や父様に余計な事を言わないように願うしかない。

 せっかくイリーゼと仲直り? 出来たんだし、それを壊される訳にはいかないからな。


「……今日はもう寝るか」


 ベッドに腰を下ろしながら、そんなことを考えていると、急に眠気が俺を襲ってきたから、そう言って俺はベッドに寝転んだ。

 色々あったし、さっさと眠って休もう。

 ……最近、ほぼ毎日色々あって疲れてる気がするけど、まぁ、いい方向に進んでるのは間違いないんだ。気にすることなんてないだろう。


「……お兄様、まだ起きていますか?」


 そうして、もうそろそろ眠りにつける、といったところで、扉のノック音と共についさっき仲直りをしたイリーゼのそんな声が聞こえてきた。


「あぁ、起きてるぞ」


 もう後数分遅かったら絶対眠ってた自信があるけど、俺はベッドで寝転んだままそう答えた。

 

「中に、入ってもよろしいですか?」


「え、あー、別にいいぞ」


 ベッドから起き上がり、眩しいのを我慢しながら明かりを付けた俺はそう言った。

 すると、イリーゼは「失礼します」と言って、部屋の中に入ってきた。

 

 ……大事な妹だからこそ、思う。

 薄くないですか? 兄妹とはいえ、俺たちは血が繋がってないんだぞ? ……なのに、そんな薄いネグリジェで俺の部屋に来るなよ。別に何もしないんだけど、危機管理能力をつけてくれ。

 ……というか、なんでイリーゼがあんなネグリジェなんて持ってるんだ? 母様や父様が買ったなんてのはありえないし、自分で買った、というのもほぼ考えられない。

 だって、イリーゼはお金なんて持っていないはずなんだから、自分で買うのなんて不可能だ。

 だったら、どうやって手に入れたんだ?


「お兄様、ずっと前から知ってましたけど、気持ちを伝えあったのは今日が初めて、ですよね?」


「え? あ、あぁ、そう、だな?」


「でしたら、せっかく気持ちを伝えあったんですし、一緒に眠ってもよろしいでしょうか? ……まだ、その、そういうことは出来ませんが」


 ???

 イリーゼは何を言っているんだ? 一緒に眠る? 俺と、イリーゼが? ……いやいやいや、ダメに決まってるだろ。

 異性の兄妹なんだぞ? しかも血が繋がってない兄妹だ。

 ダメに決まってるだろ。

 

 ……え? ダメ、なんだよな?

 恥ずかしそうにしながらも、あまりにも普通にそんなことをイリーゼが提案してきたものだから、兄妹で一緒に寝ることくらい普通なのでは? とありえない考えが頭に浮かんでしまった。


「だ、ダメだろ。俺たちは兄妹以前に異性なんだからな?」


「はい。分かっていますよ? だからこそ、いいんじゃないですか」


 ……え? 本当にこれ、俺が間違ってるのか?


「いいですよね? お兄様」


「……最初に聞いておきたいんだが、もしかしてだけど、普通のこと、なのか?」


「はい。お互い、改めて気持ちを確認したじゃないですか。当たり前のことですよ。お兄様」


 ……マジか。俺が間違ってたのか。

 ……まぁ、だったら、別にいい、のか?


「えっと、じゃあ、一緒に寝る、か? イリーゼ」


「はいっ!」


 俺が少し躊躇いながらもそう言うと、イリーゼは全く迷う素振りすら見せずに、直ぐに頷いてきた。

 ……本当に当たり前のこと、なんだよな?

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る