イリーゼの為に
「えぇ、聞きたいのはその足に付いたミサンガのことです」
「……ミサンガ?」
なんで母様がミサンガのことを聞いてくるんだよ。
イリーゼとお揃いなのを見られたのか? ……いや、ありえない。母様は……この人はイリーゼのことを家族だと思っていないどころか、完全に邪魔者だと思っている。
わざわざ自分からイリーゼを視界に入れるような真似はしないだろう。
だったら、母様はこのミサンガの何を聞きたいんだ?
「ミサンガがどうかしたのですか?」
「それは、誰に貰ったのですか?」
何故か母様は誰かに貰ったことを確信したようにそう聞いてきた。
……どうしよう。なんでそんな確信を持っているのかは分からないが、このミサンガは普通に俺が買ってきた物だぞ。
「母様、これは貰い物ではなく、私が買ってきた物ですよ」
「ゆ、ユーリが買ってきたの!?」
? 何をそんなに母様は驚いているんだ? 別に俺がミサンガを買ってたってなんの問題もないだろ。
別に安物って訳でもないし、一応貴族としての誇り? みたいなのも保ててるだろうし。……多分。
「何を心配しているのかは知りませんが、そうですよ」
「……自分の分だけ、ですか?」
本当にどういう意図の質問なんだ?
正直に答える……のは不味い、よな。
イリーゼのことを嫌っている母様達にイリーゼと俺がお揃いなのを知られるとどうなるか分かったものじゃないし。
「そうですよ」
そう思って、俺は初めて母様に嘘をついた。
「そう、なのですか。それなら、問題は無い、かな。……ちなみになんですが、ユーリ」
「はい」
「何故、そのようなミサンガを買い、左足首なんて場所に付けたのですか?」
「特に意図はありませんよ。何となくです」
イリーゼにそこに付けるように言われたから……なんて、言えるわけないし、俺はそう言った。
「……分かりました。ユーリを信じましょう。ただ、そこに付けるのはやめておきなさい。勘違いする人が現れて、婚約者を探す時に少し苦労することになるわよ」
「? よく分かりませんが、分かりました」
「分かってくれたのならいいわ」
俺が意味も分からずに頷くと、母様はメイドを連れて俺の部屋を出て行った。
……婚約者を探す時に苦労するってどういうことだ? よく分からないし、普通に利き腕……は傍から見て分かりやすすぎるし、利き足の右足の方にミサンガを付けておくか? 利き足じゃない方だからか、違和感があったのは事実だし。
イリーゼの件が解決するまで、誰かと婚約する気は無いんだけど、また母様に見つかった時に何かを言われたら、今度こそ言い訳が出来ないかもだし、そっちの方がいいよな。
……まぁ、外れないんだけど。
イリーゼに相談……はダメか。
母様と喋っていたことがバレるし、イリーゼはこの前外したらダメ、みたいなことを言ってた気がするし、普通に外してくれなそうだ。
……俺だって、せっかくイリーゼとお揃いに出来てるんだから、好きで外したいわけじゃないんだけど、母様に見つかる方が面倒だもんな。
そう思った俺は、ミサンガを外すために何か細い物を探し始めた。
また母様にミサンガの場所を変えていないのを見つかったら、何か不審がられてイリーゼとお揃いにしてることがバレるかもだし、これはイリーゼの為でもあるんだ。
それを上手いこと後でイリーゼにも説明して、勝手に付け場所を変えたことは許してもらおう。
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