チャンス
「お兄様、お風呂の準備が出来ました」
魔力が少しでも回復しないと、体がだるくて仕方がないから、リビングで休憩しているとイリーゼがそう言って俺が休んでいるリビングに入ってきた。
……早くない? さっき行ったばっかりだよな? と言うか、本当に風呂の準備をしてたのかよ。……いや、今までのことから、何となく分かってたけどさ。
「……あー、ありがとな、イリーゼ。でも、本当に何度も言ってるが、もう俺のために何かをする必要なんて無いんだからな?」
「? よく分かりませんが、私が好きでしていることですよ?」
だからなんで分からないんだよ。
……毎回毎回同じようなやり取りだし、なんか、俺の方がおかしいのかと錯覚してくるな。
ただ、おかしいのは絶対イリーゼの方だからな。
いじめをしてきていた相手の為に何かをするなんて、絶対おかしいんだから。
「それより、お風呂には入らないのですか? 背中をお流し致しますよ」
「……風呂には入るよ。ただ、背中は流さなくていい。普通に一人で入るから」
兄妹とはいえ、異性だぞ。……背中を流してくれるだけとはいえ、一緒になんて入るわけないだろ。
と言うか、なんでいきなりそんなことを提案してきたんだ? ……俺がイリーゼのことをいじめていた時だって、そんなことをしたことなんてなかっただろ。
「……そうですか」
俺の言葉を聞いたイリーゼは残念そうにそう言ってきた。
……まさかとは思うけど、そんなに俺の背中を流したかったのか?
ありえない。と否定すると同時に、今までのイリーゼのことを考えると、有り得るのかもしれない、という考えが頭をよぎってしまった。
……まぁ、あくまでイリーゼの今までの態度が演技じゃなかったら、の話なんだけど、演技だなんて思えないんだよな。
「そ、それじゃあ、風呂に入ってくるな」
一応、少しは魔力も回復したし、脱力感が薄れてきていた俺はそう言って風呂場に向かった。
「……ちゃんとタオルまで用意してあるな」
もちろんありがたいんだけど、これもイリーゼがやるような事じゃ無いんだよ。
……このままイリーゼの考えていることを考えていたって全然理解できる気がしないし、今度、いっそのことイリーゼに俺の事をどう思ってるのか、とか聞いてみるか?
普通に嫌いです、とか言われたらショックだけど、自業自得だし、その時は受け入れるしかない。
そんなことを考えつつも、俺は風呂に入った。
「いい湯だったよ。イリーゼも入ってきたらどうだ?」
そして、風呂を上がった俺は部屋に戻ろうと思ってたんだけど、偶然にもイリーゼとばったり出会ったから、そう言ってイリーゼが風呂に入るように誘導した。
「お兄様がそう言ってくださるのでしたら、私もお風呂に入ってきますね」
「あぁ、ゆっくり浸かるといい」
「はい!」
……これ、チャンス、だよな。
母様にイリーゼのことを聞きに行くチャンスだ。
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