ひねくれてんのかな
「お兄様、流石です!」
魔法を使い終わり、俺が潰れた的を見つめていると、少し後ろに立っていたイリーゼがそう言ってきた。
……なんか、複雑だな。
イリーゼの方が俺より明らかに才能があるんだから、素直に褒められてると受け取れないんだけど。
「お兄様? どうかしたのですか?」
「え、いや、なんでもないよ。ありがとな、イリーゼ」
「いえ、私は思ったことを口にしたまでです」
こんな笑顔で言ってくるイリーゼの言葉を嫌味と受け取っていたら、俺はもう何も信じられなくなりそうだから、素直に褒め言葉と受け取っておくことにした。
「本当に流石ですね、ユーリ様」
そう思っていると、マロウさんまで俺を持ち上げてきた。
まぁ、マロウさんがそう言ってくるのは、当然か。
俺は貴族で、マロウさんは宮廷魔法使いとはいえ、平民。貴族の俺の事を持ち上げておきたいのは当たり前だ。
だからこそ、マロウさんの言葉も素直には受け取れないんだよなぁ。……俺、ひねくれてんのかな。
「ありがとうございます」
そう思いながらも、俺はマロウさんにも、礼を言った。
「先に聞いておくのですが、ユーリ様は得意な魔法……長所を伸ばしたいのですか? それとも、あまり得意では無い魔法を伸ばしたいのですか?」
強いて言うのであれば、俺はイリーゼに対抗できるような魔法を伸ばしたいな。
ただ、そんなことを正直にマロウさんに言えるわけないし、そもそも、俺はイリーゼが得意な魔法を知らない。
……魔力が漏れ出てる時の冷気から察するに、安直に氷魔法が得意だったりするのか? ……もしもそうなんだとしたら、俺の水魔法って相性最悪だけど。
共闘とかをするのなら、相性最高かもだけど、敵対なら手も足も出ないだろ。
「炎魔法……は無理そうですか?」
「ほ、炎魔法、ですか? 水魔法とは正反対、ですけど」
「それは分かってるんですけど、炎魔法が使いたいんです」
主にイリーゼに対抗するために。
……使う機会があるかは分からないし、使う機会が無いことを願うんだけど、もしものことは考えておかなきゃだからな。
「やっぱり、無理そうですか?」
「いえ、大丈夫ではありますけど、当然長所を伸ばすよりも難しいですよ?」
「それで大丈夫です」
命……とまではいかないかもだけど、俺の人生がかかってる可能性は大いにあるんだから、多少難しいくらいのことで断念なんてできるはずがない。
「……分かりました。では、これを渡しておきますね」
そう言ってマロウさんは何も無い空間から赤い石? を作り出して、俺に手渡してきた。
「それに魔力を込めれば、一時的ではありますが、炎の魔法が使えるようになります。最初の課題はそれを使わずに炎魔法を使えることになることです。分かりましたか?」
「分かりました」
「では、その課題をクリアするまで、私に言えることはもうありません。ユーリ様、頑張ってください」
これを使わずに炎魔法を使えるようにならないと、スタート舞台にも立ててないってことか。
よし、絶対やってやるよ。
心の中で決意を決めた俺は、マロウさんに貰った石に魔力を込め始めた。
その間、イリーゼは空気を読んでくれているのか、喋りかけてくることはなかった。
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