手フェチなのか?

「魔力をゆっくりと流してもらっていいですか?」


 マロウさんの手のこと、そして隣から抱きついてきているイリーゼのことを考えないように心を必死に無にしようとしていると、マロウさんのそんな声が聞こえてきた。


「分かりました」


 魔力を流す。……こんな感じ、だよな。

 そうして、俺は言われた通りにマロウさんと繋いでいる手に魔力を流し出した。

 あ、これ、ちょうどいいな。魔力が暴走しないように魔力操作に集中できるから、さっきみたいに変なところに気が向かなくて済む。


「思っていたよりも練度が高いですね。……もう大丈夫ですよ、ユーリ様」


 マロウさんに言われた通り、俺はマロウさんに魔力を流すのをやめた。……褒められたってことでいいのか? 

 

「手も離しますね」

 

 そう思っていると、マロウさんは続けてそう言って手を離してきた。

 ……少し、名残惜しい気がする。

 別にマロウさんを美人じゃない。とは言わないが、少なくとも俺のタイプって訳じゃないはずなんだ。……それなのに手を離されたことが名残惜しいって……俺、手フェチなのか? 

 正直理由は分からないけど、後でイリーゼの手に触れることになってるから、そこで確かめるか。……相手は妹だし、増してはいじめをしていた相手だ。仮に俺が手フェチだったとしても、何も感じないかもだけど。


「お兄様? 何を考えているんですか?」


「えっ、あー、と、特に何も考えてないよ」


 イリーゼはそれ以上何も言ってこない。

 ……納得してくれた、ってことでいいんだよな?


「そ、それで、マロウさん。ど、どう、でしたか?」


 そう思いつつも、これ以上追及されるのが嫌だった俺はマロウさんに向かってそう言って話を進めるように促した。


「は、はい。先程も言った通り、魔力操作の練度が高いですね。良く努力したことが伺えます」


 自分の努力を変わり者とはいえ、宮廷魔法使いの人に褒められるのは悪い気がしない……どころか、かなり嬉しいな。


「ありがとうございます」


「外に行きましょうか。今度はそこで今一番得意な魔法を実際に見せてください。……えっと、庭は使っても大丈夫、なんですよね?」


「はい。もちろん大丈夫ですよ。今すぐ外に行きましょうか」


 俺は少し食い気味にマロウさんの言葉に頷いた。

 外に行けば、イリーゼも離れてくれるだろうしな。……さっき言ってた我慢できないって言葉が怖くはあるけど、あれから少し時間も経ったし、そこは大丈夫だと信じるしかない。


「……イリーゼ、離れてくれる、よな?」


 そう思った俺は、なるべく優しく、抱きついてきているイリーゼにそう言った。

 

「……はい。分かりました」


 すると、何故か渋々といった様子ではあるけど、普通に離れてくれた。

 ……何かをされる様子は特にない。……大丈夫だった、ってことか?


「……それでは、行きましょうか」


 大丈夫だったぽいし、俺はそう言ってマロウさんと一緒に外に出た。

 ……イリーゼは何故かまだ一緒にいる。

 別に嫌なわけではないんだけど、イリーゼが一緒にいる意味なんて無いと思うんだけど。

 ……いや、イリーゼ程の天才なら、見るだけで魔法を盗めたりするのかな。

 もしそうなんだとしたら、俺、自分の足を引っ張ってないか? 


「大丈夫ですか? ユーリ様」


 不安に思っている気持ちが顔に出てしまってたのか?


「え? あぁ、はい。大丈夫ですよ。得意な魔法でいいんですよね?」


「は、はい。大丈夫です」


 得意な魔法……もし俺の想像通りなんだとしたら、それをイリーゼに盗まれるってことだよな。

 ……はぁ。仮にそうだとしても、魔法を使わない、なんて選択肢は無いから、俺は自分の得意な魔法を考え始めた。

 

 俺の得意な魔法ってなんだろうな。

 やっぱり水魔法かな。

 俺の使える水魔法の中で得意な魔法っていったらかなり地味だけど、別に派手さなんて求められてないからな。


 そう思って、俺は自分の周囲に小さな丸い水の塊を百粒以上浮かばせた。

 魔法の名前は無い。オリジナル魔法……と言うか、ただ、粒を作って周りに浮かばせてるだけだからな。

 ま、まぁ、攻撃はちゃんと出来るし、立派な攻撃魔法だろ。……多分。


 そう思って、マロウさんが魔法で作ってくれた的に向かって小さな水の塊を落とした。

 自分で言うのもなんだけど、一個一個なかなかの威力が出ていると思う。

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