俺たちが兄妹だってことくらい、周知の事実だぞ

「……えっと、マロウさん、取り敢えず、話を進めましょうか」


 マロウさんにミサンガを褒められてから、何故かイリーゼは明らかに上機嫌でニコニコとしながら俺の隣に戻ってきたから、俺はそういった。

 ミサンガが褒められてイリーゼが上機嫌ってことはそれくらい俺のプレゼントを気に入ってれてるって事だし、俺も少し機嫌が良くなりながら。


「あ、は、はい。……その、最後に一つだけ、大丈夫ですか?」


「え? えぇ、なにか気になることがあるのなら、なんでも聞いてください」


「は、はい。……その、ミサンガのこと、なんですけど、それを誰かに言いふらしたりするのはダメ、ですよね?」


 ……俺とイリーゼのミサンガがお揃いなことをなんで誰かに言いふらしたらダメなんだ? 

 別にそれを誰かに言われたところで仲のいい兄妹だと思われるだけだし、全く問題がない……どころか、好都合だろ。

 俺とイリーゼの仲が悪くないって噂が広まれば、学園でのイリーゼの扱いも良い方に変わってくると思うし。


「むしろどんどん言ってくれて構いませんよ。……まぁ、そんなことを言う機会があれば、ですけど」


「えっ? い、いいんですか?」


「? はい、構いませんけど」


「……秘密の関係、とかではないんですね」


「?」


 秘密の関係? マロウさんは本当に何を言っているんだ? 俺たちが兄妹だってことくらい周知の事実だぞ。……やっぱり、マロウさんは変わり者なんだろうな。

 だからこそ、俺は宮廷魔法使いに魔法を教われるんだし、全く問題なんて無いんだけどさ。


「お兄様っ」


 そう思っていると、何故かさっきよりも嬉しそうな雰囲気を醸し出しているイリーゼが俺のことを呼びながら胸を押し付けるようにして隣から抱きついてきた。


「い、イリーゼ!?」


 嬉しくない、って言えば嘘になるけど、なんで俺は抱きつかれてるんだよ!? 怖いんだけど。あなた、俺の事嫌いなんですよね? 怖いんですけど。何か企んでるのか? ……いや、そんな風には見えないし、単純な好意……なのか? 

 ……ダメだ。イリーゼのことが俺には分からない。


「お兄様、今、離れたら、我慢できなくなっちゃいます」


 そう思いつつも、マロウさんの前……じゃなかったとしても、明らかに普通の兄妹の距離感じゃないし、イリーゼを少し無理やりにでも引き離そうとしたところで、イリーゼは耳元で小さくそう言ってきた。

 

「ーーッ」


 我慢できないって、何をだよ。……復讐、なのか? ……だとしたら、なんでだ? さっきまで、上機嫌、だったよな? やっぱり、演技だったのか?


「と、取り敢えず、マロウさんの質問には答えましたし、今度こそ、話を進めましょうか」


 イリーゼを引き離したら何をされるか分からない以上、俺はこのまま話すしかないと思って、マロウさんに対して動揺を見せないようにしつつ、そう言った。


「わ、分かりました」


 よし、マロウさんも触れてこないし、俺も触れないようにしよう。

 地雷原には触れさえしなれば爆発なんてしないからな。


「えっと、まずは手に触れても大丈夫ですか?」


「はい、もちろん大丈ーー」


「ダメですよ?」


 手に触れられることくらいなんてことないし、それが必要なことなら、尚更なんてことない。

 だからこそ、俺が頷こうとすると、俺に抱きついてきていたイリーゼが何故かいきなりそう言って口を出してきた。……俺に抱きついてきている力を強くしながら。

 痛くは無いんだけど、ただでさえ当たっていたイリーゼの胸が俺の体に押しつぶされて、せっかく意識しないようにしていたのに、嫌でも意識させられてしまっているから、今すぐにでもやめて欲しい。


「……イリーゼ、そのままでもいいから、邪魔をするのはやめてくれるか? その、頼むからさ」


 やめて欲しいとは思うものの、さっきの「我慢できない」というセリフが脳裏に過って、離れてくれ、と言うことは俺には出来なかった。


「……お兄様は、その女の手に触りたいんですか?」


「そういう話じゃないだろ」


 イリーゼは俺より賢いはずなのに、なんでそんな結論になるんだよ。


「……分かってます。でも、嫌なんです」


 ……俺が強くなることが、か? ……確かに、復讐をしたいイリーゼからしたら、それは嫌かもしれないけど、俺だって、強くならないとダメなんだから、ここで引く訳にはいかない。


「えっと、い、イリーゼ様、その、大丈夫、ですよ。私は、お二人の関係を知っていますし、取ったりとか、しませんし、そもそも、私ではそんなこと、出来ません」


「……本当、ですか?」


「は、はい。当たり前です」


「……お兄様、後でで大丈夫なので、その人以上に、私の手に触れてくれますか?」


 何か、俺には理解できない二人の会話が始まってしまった。

 と思っていたら、イリーゼは突然そんなことを聞いてきた。


「……イリーゼがそれで納得してくれるのなら、もちろんいいよ」


 そう言いつつも、俺は先程のマロウさんの言葉に何か引っかかっていた。

 私はお二人の関係を知っている。……このマロウさんの言葉、おかしい、よな。

 さっきも思ったけど、俺とイリーゼが兄妹なことなんてみんな知ってることだろ。……なのに、なんでそれをまるで自分だけ知っている、みたいな感じで言ってきていたんだ?


「それでは、今度こそユーリ様、手に触れても大丈夫ですか?」


「あっ、はい。大丈夫ですよ」


 そう言って俺が両手をマロウさんに向けて出すと、マロウさんはゆっくりと俺の両手を握ってきた。


 案外柔らかい手だな。

 俺がそう思った瞬間、何故か隣にいるイリーゼの視線が強くなった気がした。

 ……まぁ、さっきのマロウさんの言葉も、イリーゼの視線のことも、今は気にしないようにしよう。……もちろん、マロウさんの手のことも、なんとなくだけど、もう気にしないようにしよう。

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