どっちでもいい

 父様に家庭教師のことをお願いしてから、二日が経った。

 勉学の家庭教師は学園に入る前は居たんだけど、魔法の家庭教師は初めてだからな。

 どんな人を雇ったんだろう。

 ……喋りにくい人は嫌だな。……まぁ、俺に対しては甘い父様が雇うような人だから、優秀な人ではあるんだろうけど。


「失礼します」


 そんなことを思いながら、父様から呼び出しを受けていた俺は父様のいる部屋をノックしてから、部屋の中に入った。


「来たか、ユーリ」


「はい」


 正直、さっさと本題に入って欲しい。

 最近、俺がイリーゼ仲良くしようとしてることが伝わってるかもしれないし、それに触れられたらめんどくさいからな。今はいい言い訳なんて思いつかないし。

 ……父様は自分で連れてきたくせに、イリーゼに貴族の血が流れていないから、って理由だけで無能なんていう噂を流すような人だぞ? そんな人に俺がイリーゼと仲良くしようとしているなんて思われたら、イリーゼに何をされるか分かったものじゃないからな。


「ユーリが言っていた家庭教師の件だが、引き受けてくれる人を見つけてきたぞ」


 そう思っていると、そんな俺の思いを察したわけではないんだろうけど、父様は少し自慢げな顔をして、そう言ってきた。

 ……なんでそんな自慢げな顔なんだ? 父様は侯爵なんだから、正直、家庭教師を見つけられるのは当たり前だと思うんだけど。

 ……いや、見つけてきてもらっておいてこんな文句を言うのは筋違いだとは分かってるんだけど、俺を甘やかしてまともに育ててくれなかった人だからな。……これくらいはいいだろ。

 

「ありがとうございます」


「大事な息子の為だ。これくらい当然だろう。今日の昼には来ることになっている。ユーリの方も準備しておくんだぞ」


「……分かりました」


 昼からということに疑問を覚えつつも、俺は頷いた。

 父様が昼からってことに腹を立てた様子がないことから、相手はそれなりの身分を持っているか、忙しい立場の人だってことが理解できるからな。

 

「それでは、私はこれで失礼します」


「待て」

 

「なんでしょうか」


「最近親子として、私たちは全然話が出来ていないだろう。だから、少し話さないか? 今ならちょうど時間もあるからな?」


「いえ、私は用事がありますから。申し訳ありませんが、失礼します」


「……そうか」


 そう言って俺は父様がいる部屋を後にした。

 用事があるなんて真っ赤な嘘なんだけど、必要以上に父様と話したいとは思わないからさ。

 

「……イリーゼのところに行くか」


 そして、俺はそう呟いて、イリーゼの部屋に向かって歩き出した。

 昼に俺の家庭教師が来るってことを一応伝えておこうと思ってな。

 これがイリーゼ相手じゃなかったら、その辺のメイドにでも頼んで伝えに行かせるんだけど、相手がイリーゼだからな。……メイドがちゃんと伝えてくれるか分からないし、伝えてくれたとしても、イリーゼに悪態をつくようなら俺が行く方がいいしな。

 ……イリーゼからしたら、俺が来るより、メイドに悪態をつかれる方がまだマシなのかもしれないけど。


「イリーゼ、今いいか?」


 そんなことを思いながら、イリーゼの部屋の前まで来た俺は、そう言って扉をノックした。


「お兄様!? はい! もちろんです!」


 すると、中からびっくりしたようなイリーゼの声が聞こえてきて、ニコニコとしながら直ぐに扉を開いてくれた。

 

「是非中にどうぞ、お兄様」


「……いや、ちょっと言っておくことがあって来ただけだから、中には入らないよ」


「……そう、なんですか?」


 何故かイリーゼは残念そうに俺にそう聞いてくる。


「イリーゼにはほぼ関係ないことなんだけど、一応伝えておく。昼くらいに俺の家庭教師をやってくれる人が来るから、一応頭に入れておいてくれ」


「家庭教師? 昔、お兄様に勉学を教えていた男の人ですか?」


「それは分からない」


「……分からない? ……それは、まさかとは思いますけど、女性、ですか?」


 イリーゼは真剣な表情でそう聞いてくる。

 なんでそんなこと聞いてくるんだ?


「どう、だろうな。そういえば、俺も聞き忘れてたよ」


 そんな疑問を思いつつ、そしてイリーゼの圧に少し気圧されながらも、俺は正直にそう言った。

 男でも女でも、俺としては別にどっちでもいいしな。教え方が上手くて、腕があるのなら、性別なんて気にしないし。

 

「お兄様は、どちらの方がよろしいのですか? 男性か、女性か」


「教え方が上手いのなら、どっちでもいいよ」


「……そうですか」


「……えっと、伝えたいことは伝えたし、俺はもう戻るな? イリーゼはいつも通りに過ごしてくれたら大丈夫だから」


「はい。でしたら、いつも通り、過ごさせてもらいますね」


「あぁ」


 イリーゼがそう言ってくれたのを確認して、俺は自分の部屋に戻った。

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