家庭教師
自分の部屋で適当に過ごしていると、突然、扉がノックされた。
「ユーリ様、もう間もなく、家庭教師を引き受けてくださった方がご到着されるみたいです」
そしてそのまま、そう言ってきた。
「あぁ、分かった」
一瞬イリーゼかも? とか思ったけど、普通にメイドだったな。
……まぁ、普通に考えたらイリーゼじゃないのは当たり前だよな。……何度も言うけど、俺、イリーゼをいじめてた相手だし。
……なんか、少し前普通に自分から俺の部屋にイリーゼが来てた気がしたけど、あれは気の迷いってやつだろうしな。
そんなことを思いつつ、服を着替えた俺は、客間に向かった。
父様に準備はしておけ、とは言われたが、出迎えろとは言われてないからな。客間で待っていれば大丈夫だろう。
「ユーリ様、お連れ致しました。お入りしてもよろしいでしょうか」
そうして家庭教師を引き受けてくれた人のことを待っていると、メイドが扉をノックしながら、そう言ってきた。
「あぁ、入ってくれ」
中に入れない理由なんてないし、俺は扉の外に向かってそう言った。
すると、メイドが扉を開けて、先に俺の家庭教師? の人を中に入れ、俺に頭を下げてきた。
「私は紅茶を用意してまいります」
そしてそのまま、メイドはそう言って部屋を出ていった。
メイドが扉を閉めたところで、俺は改めて家庭教師を引き受けてくれたらしき人に目を向けた。
長い黒髪に黒い目を持った女性だ。
性別なんてどっちでもいいってイリーゼに言ったのは嘘ではないんだけど、正直、普通に男性が来ると思ってたな。
それに、この人は本当に魔法使いなのか? 魔法使いっていうのは貴族が多い。仮に貴族じゃなかったとしても、魔法使いに生まれた時点で仮に平民であっても貴族と関わる機会だって出てくるし、姿勢はちゃんと背筋を伸ばしていることが多いんだよ。
なのに、目の前のこの人は猫背だ。研究者か何かなのか? と思わせるくらい背中が丸まっている。
いや、俺は別にいいと思うけどさ、よく父様がこんな人に俺の家庭教師をお願いしたな、という疑問は残る。
「……は、初めまして。この度、ユーリ様の家庭教師を引受させて頂きました、一応、宮廷魔法使いのマロウです」
「あぁ、よろし……は? 宮廷魔法使い?!」
「は、はい」
俺、聞いてないんだけど!?
父様、なんでそんな大事なことを言っておいてくれなかったんだよ! めちゃくちゃ大事だろ!
「……えっと、そんな人が俺なんかの家庭教師なんて引き受けて良かったんですか?」
内心で父様に対する不満を口にしながらも、俺は表情に出すことはせずに、そう聞いた。
言葉遣いは少し丁寧にしながら。
いやさ? 家庭教師になっくれる人とはいえ、相手が平民なんだったら、言葉遣いを正す必要も無いと思ってたけど、宮廷魔法使いなんてものになれば話は変わってくるだろ。
「は、はい。その……誰かに何かを教えるのは、好き、なので」
……本当に魔法使いっぽくない人だな。
普通、誰かに魔法を教えるのが好きな魔法使いなんて居ないぞ。
みんな、そういうのは自分だけの秘密にしたいものだからな。特に強者になればなるほどさ。
学園にいる教師達だって、結局は金が貰えるから、俺たち教師に魔法だったりを教えてくれてるんだよ。
でも、この人……マロウさんなら、宮廷魔法使いなんだから、金に困ってるなんてありえないんだよ。普通の魔法使いなら、絶対に受けない仕事だぞ。
「でしたら、俺はラッキーなんですね。……マロウさんも、座ってもらって構いませんよ」
俺は目の前の机を挟んだ先にあるソファに視線を向けながら、そう言った。
「あ、ありがとうございます」
すると、マロウさんは直ぐにそう言って目の前のソファに座ってくれた。
……普通、対面だよな。イリーゼだったら、なんとなく、隣に座ってきそうな気がする……というか、実際隣に座られたりしてたんだけど、あれがおかしいんだよな。
「紅茶とクッキーをお持ちしました」
扉がノックされる音と共に、そんな声が聞こえてきた。
その瞬間、俺の頭は真っ白になった。
だって、明らかに声がさっきのメイドではなく、イリーゼの声だったから。
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