余計なことしかしないな

 少し悩んだ結果、俺はこの水のミサンガを2本買って店を出た。

 ……うん。2本だ。

 あれだぞ? 一応言っておくけど、別にイリーゼとお揃いにしようとして2本も買ったわけじゃないぞ?

 単純に、イリーゼが俺からのプレゼントなんて要らない! って言って俺がプレゼントしたミサンガを売った時に俺がつけようと思って2本買ったんだよ。

 値段はそこそこしたけど、一応俺は貴族だしな。お小遣いは結構貰ってるんだよ。だから、お金的には平気だ。


 ……プレゼントは買えたし、普通だったら別にもう帰ってもいいんだけど、まだフェリシアンがいる可能性があるし、帰りたくないな。

 ……もう、今日も外で夜を食おうかな。 

 いや、でも、黙って出てきてるわけだし、帰らないとだよな。


「はぁ。仕方ない、帰るか」


「かしこまりました」


 フェリシアンがいる可能性が少しでもある以上、本当に帰りたくなんてないけど、俺は呟くようにそう言った。

 すると、別に護衛に向かっていった訳じゃなかったんだけど、護衛が頷いてくれた。

 

 周りを警戒してない訳でもないみたいだし、やっぱり俺は空気に徹する護衛よりこういう護衛の方が好みだな。……まぁ、今は考えられないけど、婚約者とかが出来てその子と二人っきりで居る時にこうやって空気になってくれないのはちょっとあれだけど、その時はそのときで空気になってくれるだろ、多分。


「そういえば、名前、聞いてなかったな」


 一人の時はもうこいつに護衛を任せたいと思って、俺はそう聞いた。

 

「は、はい。申し遅れました、ライヤーと申します」


「そうか、覚えとくよ」


「はい、是非お願いします」


 そうして護衛の名前を聞いた俺は、そのままその護衛……ライヤーと一緒に家に帰った。

 マルシェ家の馬車は見当たらない。

 良かった。フェリシアンは帰ったっぽいな。

 そう思って、護衛と別れた俺は安心して家の中に入った。

 

「……お兄様、私を置いてどこに行っていたんですか」


 家に帰るなり、メイド……ではなく、イリーゼが体から冷気を出しながら、そう言って俺を出迎えてくれた。

 ……暑い時期なら嬉しかったかもしれないけど、今はそんなに暑い時期じゃないからな? その冷気、抑えような? 寒いから。


「と、取り敢えず、抑えよう。な? イリーゼ」

 

 そう思って、俺はそう言った。

 その際声が震えていたのは、仕方の無いことだと思う。……あれだ。寒い、しな。うん。寒いだけだ。


「部屋に戻るって言っていましたよね? なのに、なんで外に出ているのですか? せっかく、今日はお兄様と二人っきりで居られると思っていたのに、あんなゴミに時間も取られますし……」


「い、イリーゼさん? だ、大丈夫か? い、一旦、落ち着こうな?」


 やばい。イリーゼが怒って意味不明なことを言い出してるぞ。……俺と二人っきりで居られると思ってたとか、まるで俺と二人っきりで居たかったみたいな言い方に聞こえるし、絶対おかしい。

 ……と言うか、あんなゴミって、この前の言い分的に、多分、フェリシアンだよな。……もしかしてだけど、フェリシアンが余計なことをして、更にイリーゼを怒らせたからこそ、今こんな感じでイリーゼがおかしくなってるんじゃないのか? ……本当に余計なことしかしないな、あいつ。……学園での余計なことっていうのは俺目線で、だけどさ。

 一応、イリーゼを思っての言葉だと思うし。


「ほ、ほら、喜んでくれるか分からないけど、イリーゼにプレゼントを買ってきたんだよ」


 俺からのプレゼントなんて更に機嫌を悪くするかもしれないけど、俺はそう言って商会長に丁寧に紙袋包んでもらったウォータースパイダー? の糸で作られたミサンガをイリーゼに手渡した。

 

「……え?」


 すると、イリーゼから漏れ出ていた冷気が一瞬にして完全に消えた。

 ……これは、良い反応ってことでいいのか?

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