お揃い

「ほ、ほら、喜んでくれるか分からないけど、イリーゼにプレゼントを買ってきたんだよ」


 俺からのプレゼントなんて更に機嫌を悪くするかもしれないけど、俺はそう言って商会長に丁寧に紙袋包んでもらったウォータースパイダー? の糸で作られたミサンガをイリーゼに手渡した。

 

「……え?」


 すると、イリーゼから漏れ出ていた冷気が一瞬にして完全に消えた。

 ……これは、良い反応ってことでいいのか?


「わ、私に、ですか?」


「あ、あぁ、もちろんだ。そもそも、そう言ってるだろ?」


「は、はい。……開けてみてもいいですか?」


「気に入ってもらえるかは分からないけど、開けてみてくれ」


 さっきまでの雰囲気がまるで嘘だったかのように、イリーゼは嬉しそうな雰囲気を漂わせながら、紙袋をゆっくりと丁寧に開けだした。


 ……今になって、不安が押し寄せてくる。

 もっとわかりやすい、それこそ、宝石みたいなのを買った方が良かったか? ……ダメだ。今になって、ウォータースパイダーの糸で作られたミサンガなんてものを買ったことを後悔し始めてる。


「……ミサンガ、ですか?」


「……えっと、気に入らなかったのなら、売ってもらっても構わーー」


「お兄様からの頂き物を売るだなんて有り得ません!」


 気に入らなかったのなら売ってもらっても構わない。

 そう言おうとしたところで、イリーゼは俺の言葉に被せるようにして、そう言ってきた。

 これは、気に入って貰えたってことでいいのか? 


「宝物にしますね、お兄様」


 満面の笑みを俺に向けて、イリーゼはそう言ってきた。


「気に入って貰えたのなら、良かったよ」


 よく分からないけど、俺からのプレゼントでここまで喜んでもらえるなんて、相当気に入って貰えたってことでいいんだよな。

 あの時、あのミサンガを買っといて本当に良かった。……まぁ、俺の分は無駄になったけど。

 いや、もう1本もイリーゼにあげるか? どうせ俺が持ってたって、イリーゼが俺とお揃いなんて嫌がるだろうしな。


「イリーゼ」


「はいっ」


「こっちも、良かったらイリーゼにあげるよ。……一応、俺の分で買ってきた物なんだけど、それはイリーゼがこれを気に入らなかった時の話だからさ」


 そう思って、俺は自分の分に買ってきたミサンガをイリーゼに渡そうとした。


「? お兄様とお揃いってことですか?」


「え? い、いや、これもイリーゼにあげるから、おそろいなんかじゃないよ」


「どうしてですか? 自分の分で買ったんですよね? それでしたら、是非、お揃いにしましょうよ」


 俺はイリーゼのためを思ってそう言ったのに、何故かお揃いにしようとイリーゼの方から言われてしまった。

 正直、なんでイリーゼがこんなことを言ってきてるのかは分からないけど、イリーゼが良いって言ってくれてるんだから、良い、のか? 俺、これ結構気に入ってるし、ほんとは自分でもつけたかったんだよ。……でも、俺はイリーゼをいじめてた最低な人間だし、イリーゼの為に我慢しようとしたんだけど、そのイリーゼが良いって言うんだからいいんだよな? 

 何か裏があるのかもしれないけど、そんなのどうでもいいと思えるくらいに俺はこのミサンガのことを気に入ってるし、深くは考えないぞ?


「いいのか?」


「はいっ。もちろんです。……むしろ、嬉しいです」


「そ、そうか。ありがとな」


「? はい。……お兄様、一つ、お願いがあるのですが、よろしいでしょうか?」


「俺に出来ることなら、もちろん構わない」


「……お兄様に、付けてもらいたいです」


 イリーゼは遠慮しつつも、そう言ってきた。

 ……それ、本当に俺でいいのか? いや、イリーゼが俺につけてもらいたいって言ってるんだし、いいんだろうけどさ。


「……ダメ、でしたか?」


 そうして俺が色々と考えていると、断られると思ったのか、イリーゼは俺に差し出してきていた右腕を引いて、胸の前で手をギュッ、としながらそう言ってきた。


「い、いや、ダメじゃないよ。……どこに付けたらいいんだ?」


「は、はいっ! 左足首のところでお願いします」


 さっきイリーゼに渡した水のミサンガを手に取りつつ、俺はそう言った。

 すると、イリーゼは嬉しそうに頷いて、恥ずかしそうにしつつも左足を俺の方に向かって差し出してきた。

 腕じゃないのか。……まぁ、イリーゼはスカートだし、足でも普通に見えるだろうしどうでもいいけど。

 


「上手く付けれてるかは分からないけど、これでどうだ?」


「はい。嬉しいです、お兄様……ありがとうございます」


 そうして、イリーゼの希望通りに左足首にミサンガを付けると、本当に嬉しそうにして、イリーゼはそう言ってきた。


「お兄様にも、私が付けてあげますね。私と同じ場所で大丈夫ですよね?」


「え? あぁ、それで大丈夫だ」


 普通に腕に付けるつもりだったんだけど、せっかくイリーゼが付けてくれるって言ってるんだし、断るようなことはせず、俺は頷いた。

 すると、イリーゼはニコニコと嬉しそうにしつつ、俺の左足首にもミサンガを付けてくれた。

 

「ありがとな、イリーゼ」


「いえ、私の方こそ、ありがとうございます」

 

 ……プレゼントを気に入って貰えたっていうのが理由なんだろうけど、やっぱり、俺ってそんなに嫌われてないんじゃないのか? って思ってしまうな。

 だって、イリーゼの方から同じところにミサンガを付けてきたんだぞ? そう思ってしまうのも仕方ないだろ。……結局、俺がそう思いたいだけなんだけどさ。

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