プレゼントでも買いにくか?

 疲れた。

 ……いや、適当に街を歩き回ったんだから、当たり前っちゃ当たり前なんだけど、疲れた。

 歩いている間になにか思いつくと思って、ずっと歩いてたのに、全然思いつかないし。ただ歩いただけなんだけど。

 ……家でゴロゴロしてるよりは、健康にもいいだろうし、良かったのかな。


 まぁ、ちょっとした気分転換にはなったし、無駄な時間じゃなかったことは確かだな。

 そろそろ帰るか。一応、何も言わずに黙って出てきたし、心配させるかもしれないしな。……イリーゼはしないかもだけど。

 

「……」


 そう思って、家の方向に歩き出そうとしたところで、マルシェ家の馬車が俺の家に向かって走っているのが見えてしまった。

 ……あれ、もしかしてだけど、フェリシアンが入ってたりしないよな? ……よし、帰るのやめよ。

 今日も夜は外で食べることにしようかな。……流石に夜には帰ってると思うけど、俺が帰った時に居たら嫌だからな。


「帰るのでは無いのですか?」


「……気が変わったんだよ」


 間違いでは無い。

 フェリシアンに会いたくないだけとはいえ、フェリシアンの家の馬車を見て帰るのをやめたからな。気が変わったってのも嘘じゃないはずだ。

 

「では、どこに向かうのですか?」


「……」


 また適当に歩いてても、どうせ何も思いつかないし、どうしようかな。

 ……何か、イリーゼにプレゼントでも買いに行くか? ……よく考えてみたら、イリーゼってアクセサリーだったりそういう身につけるものって何も持ってないよな。

 よし、そうしよう。……俺からのプレゼントを喜んでもらえるかは分からないけど、喜んでくれなかったらくれなかったで普通に売ってもらっても構わないしな。お小遣いくらいにはなるだろ。




 そう思って、俺の家御用達の商人がいる店にやってきたんだが、一つ問題が発生した。


「……なぁ」


「はい」


「この服で入れると思うか?」


「護衛の私がいるので、問題ないかと」


 あ、そうか。

 だったら、問題ないな。入ろ。


「ようこそおいでくださいました。ユーリ様」


 そうして、護衛と一緒に中に入ると、直ぐに働いていた従業員が頭を下げながらそう言ってきた。

 かなり教育が行き届いてるな。父様ならともかく、俺の見た目まで覚えているなんてな。

 ……いや、商人としては当たり前だったりするのか? 


「直ぐに商会長を呼んでまいりますね」


「いや、別にそこまでしなくていい。今日は少しアクセサリーを見に来ただけだからな」


「申し訳ありません。私も立場上、商会長を呼ばない訳にはいかないのです」


「そうか。だったら、呼んでくれ」


「はい」


 俺としてはどっちでもいいし、立場上呼ばないとまずいというのなら、好きに呼んでくれ。

 

 そうして、個室に案内されてから、商会長を連れて来てもらった。

 

「お久しぶりでございます、ユーリ様。本日はどういったご用件で?」


 さっき俺はアクセサリーを見に来たって言ったし、商会長を呼んだ人間にそのことは聞いてるんだろうけど、一応って感じで聞いてきたんだろうな。


「アクセサリーを見に来たんだよ。……金髪の女の子にプレゼントするアクセサリーだ。何かおすすめはないか?」


 正直、俺は誰かにプレゼントをあげたことなんてない……こともないか。……一応、昔父様や母様に肩たたき券的なのをあげたことはあるけど、それはノーカウントだ。

 ノーカウントだから、誰かにプレゼントをあげたことなんてない。だからこそ、俺は正直に……名前分かんないから商会長でいいや。商会長に聞いた。

 こういうの、慣れてると思うからな。


「なるほど、少々お待ちください。おすすめ出来るものを直ぐにお持ち致しますので」


「分かった」


 俺が頷くと、商会長が頭を下げ、部屋を出ていった。

 ちなみに、護衛は俺の後ろに立っている。

 喋りかけては来ない。……うん。これが普通だよな。さっきまで、結構話しかけてきてたから、また話しかけてくるかと思ったけど、こういうところではちゃんとしてくれるんだな。

 ……またこの護衛の評価が上がってしまった。


 そうして俺が内心で護衛の評価を上げていると、商会長が戻ってきた。

 

「お待たせ致しました。こちら、ウォータースパイダーの糸で作られたミサンガとなっております」


 何ウォータースパイダーって。初めて聞いたんだけど。

 と言うか、見せられてるミサンガが完全に水でできたミサンガなんだけど。……綺麗だとは思う。でも、これをイリーゼが気に入ってくれるか? ……仮に俺に当てはめると思うんだとしたら、嬉しいな。なんか、見たことないし。ちょっと欲しいって今思ってるし。



 

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