俺、いつもよりかなり早く食べ終わったよな?

 はぁ。しょうがない。

 今日は少しいつもより急いで昼飯を食べるか。

 いつも俺とイリーゼの飯を食べ終える時間はほぼ同じだし、俺が急いで食べれば、万が一にもイリーゼに話を聞かれないように母様と話す時間も出来るだろう。……多分。

 あんまり長話をするつもりもないしな。




 そう思って、急いで昼食を俺は食べ終えた。

 ……そう、かなり早く食べたんだよ。


「美味しかったですね。お兄様」


 なのに、なんで目の前には既に昼食を食べ終わったイリーゼがニコニコと笑みを浮かべながらそんなことを言ってきてるんだよ。

 ……え? ほんとになんで? 俺、いつもよりかなり早く食べ終わったよな? イリーゼだって、いつもはもっともっと食べ終わるのが遅いはずだ。

 なんで食べ終わってるんだよ。


「どうかしましたか? お兄様」


「え、あ、いや、なんでもない、よ」


 万が一にもイリーゼに母様との話を聞かれたくないから、イリーゼより早く食べ終えて母様のところに向かおうとしていた、なんて、言えるわけないし、俺はそう言った。

 父様のことと同じで、母様の話題もイリーゼにはあんまり出さない方がいいと思うし。


 俺がそう思っていると、イリーゼが自分の分と俺の分の食器を持っていこうとしていたから、俺は近くで待機していたメイドを呼んで、イリーゼと俺の分の食器を持って行ってもらった。

 

「……お兄様、何故、私に持っていかせてくれなかったのですか?」


 すると、イリーゼが不満……というより、何かを恐れるように? そう聞いてきた。

 俺を怖がってる……ってのは、今更、だよな。……いや、仮にそうだとしても、俺はイリーゼをいじめてた相手だし、それを考慮すると別に不思議な事じゃないんだけど、昨日までの態度を考えると、イリーゼが俺に脅えてる、なんてありえないと思うんだよ。


「えっと、なんでだ?」


「…………」


 どれだけ考えてもイリーゼがそんな態度でそう聞いてくる理由が分からなかったから、俺は素直に首を傾げながらそう聞いた。

 すると、イリーゼは黙って俺の目を見つめてくる。

 いや、なんですか? 俺、なにかしましたか? 顔はめちゃくちゃ整ってて可愛いのに、怖いんですけど。


「……あっ、いえ、なんでもありません。でも、次からはいつも通り、食器は私が持っていきますね」


 そう思っていると、今度はいきなりほっとした様子を見せて、また笑顔のままそう言ってきた。


「わ、分かったよ。イリーゼが嫌じゃないのなら、好きにしてくれ」


 これもメイドの仕事だと思うし、もうイリーゼをいじめてなんていないんだから、本当なら今日と同じようにメイドにやらせたいんだけど、イリーゼの有無を言わせない雰囲気に当てられた俺は、そう言って頷いた。


「はいっ!」


 ……うん。それで、どうしよう。

 結局、イリーゼに聞かれないように母様と話が出来ないことには変わりないんだけど。

 今から、どこか外に出かけるように頼むか? ……いや、ダメだな。いじめをやめた時から、イリーゼはこれから自由にしていいんだっていつも俺が言ってるし、そんな俺がイリーゼのしたくないことを強制するなんてできるはずがない。

 

 また、イリーゼが風呂に入っている間に母様のところに行くか? ……無理だな。俺はいつイリーゼが風呂に入るのかなんて把握してないし、それを本人に聞くのは……なんか、キモイだろ。

 同性でもちょっとあれなのに、異性ともなればもう終わりだろ。ただでさえどん底に近い好感度が更に下がるなんて、笑えない。

 うん。ダメだ。


 しょうがない、やっぱり今日は諦めるか。

 またいつかチャンスがある時でいいや。……正直、母様からどんな答えが返ってくるかなんて、予想がついてるからな。

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