偶然、だよな?
「……ん。……朝か」
ベッドの上で意識が覚醒してきた俺は、朧気な意識で呟くようにそう言った。
……カーテンの隙間から差し込む光的に、もう朝と言うより、完全に昼だと思う。
正直、なんだかんだ言って、誰かには起こされると思ってたんだけどな。……別にいいけど。
「お兄様、おはようございます。昼食の準備は既にできていますが、どう致しますか?」
これ以上寝る訳にもいかないし、ベッドから起き上がったところで、まるで俺が起きるのを待っていたかのようにイリーゼが扉の向こうからそう言って声をかけてきた。
……偶然、だよな? まぁ、そりゃ偶然か。
これが偶然じゃなかったら、イリーゼはわざわざ俺が起きるのを部屋の前でずっと待っていたってことになるんだぞ?
しかも、それだけじゃなくて、外に漏れるような声で喋ってなんていないのに、俺が起きたことを察して直ぐにそうやって声をかけてきてるってことになるんだぞ? ありえないだろ。
「食べるよ。わざわざありがとな。……ただ、イリーゼが知らせに来る必要なんてないんだからな? その辺のメイドにでも頼めばいいから」
「……お兄様は私じゃなく、メイドの誰かに来て欲しかったのですか?」
……なんでそうなるんだよ。
「そんなことないよ」
正直別にどっちでも良かったんだけど、それを馬鹿正直に言うよりも、そんな感じで言う方がいいと思ったから、俺は扉の向こうに向かってそう言った。
そしてそのまま、部屋を出た。
「おはよう、イリーゼ」
「はい、おはようございます。それで、お兄様は他のメイドなんかではなく、私で良かったですよね?」
「…………良かったよ」
なんでそんなことをわざわざそこまで気にするのかは知らないけど、どっちでも良かったよ、という意味を込めて俺はそう言った。
すると、俺がそんな内心に秘めた意味を知ってか知らずか、何も言わないけど、イリーゼは嬉しそうな雰囲気を醸し出してきた。
「……イリーゼもまだ食べてないのか?」
そうして昼食を食べるためにリビングに向かって歩いていると、イリーゼも着いてきていたから、俺はそう聞いた。
「はい、お兄様と食べようと思いまして、待っていたんです」
「……そうか。……あー、次からは、わざわざ無理して待たなくたっていいからな?」
「大丈夫です。私が好きで待っていただけですから」
絶対そんなことないと思うけど、寝起きで頭もあんまり回ってないし、まだちょっと眠いし、もういいや。追求するのも面倒だし。
それにそんなことより、俺はイリーゼに聞いとくべきことがあるからな。
「イリーゼ」
「はい、お兄様」
「別に何か深い意図があるわけでは全然無いんだが、イリーゼは今日、何か用事とかあるのか?」
「もちろんありません。お兄様のためにいつも私の予定は空けています」
「……いや、あの、何か用事……と言うか、やりたいことがあるのなら、そんな無理して予定なんて空けてなくていいからな?」
「大丈夫です。やりたいことなんてありませんから。……いえ、無いと言うのは嘘ですね。あるにはあるのですが、それは必ず叶うことなので、今は大丈夫です」
「……趣味とか、無いのか?」
そう聞いた瞬間、俺はそんなことを聞いたことをすぐに後悔した。
だって、イリーゼに趣味が無いのなんて、当たり前のことなんだから。
ただでさえ最低限の知識しか教えられていないのに、趣味なんてもってるわけないだろ。
「悪い。なんでもない」
「? そうですか?」
「あぁ」
「……今度、一緒に……いや、一緒にじゃなくてもいいから、趣味でも探そうか。俺も協力するからさ」
「はい! 是非一緒にお願いします!」
……一緒にでいいのか。
まぁ、イリーゼがいいのなら、いいのか。どうせ協力するのなら、俺としても一緒の方が良かったし。
「着きましたね、お兄様」
そんな話をしながらも、イリーゼと一緒に歩いていると、もうリビングに着いてしまったみたいで、イリーゼはそう言ってきた。
「……そうだな」
イリーゼと趣味を探す約束が出来たのはいい。……それで少しでもイリーゼと仲良くなって、好感度が上がれば復讐の仕方も変わってくるだろうからな。
ただ、結局今日はイリーゼに予定なんて無かったし、母様のところには行けない。
……いや、別に行けないことは無いんだけど、母様がどんな理由でイリーゼを無能と罵っていたのかが分からない以上、少しでもイリーゼに話を聞かれる可能性がある状態で離したくはないんだよ。
はぁ。しょうがない。
今日は少しいつもより急いで昼飯を食べるか。
いつも俺とイリーゼの飯を食べ終える時間はほぼ同じだし、俺が急いで食べれば、万が一にもイリーゼに話を聞かれないように母様と話す時間も出来るだろう。……多分。
あんまり長話をするつもりもないしな。
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