こんなことで好感度が稼げるなら
結局家に着くまでイリーゼと手を繋ぎながら、帰ってきた。
「イリーゼ、俺は風呂に入ろうと思うんだが、どうしたい?」
「お兄様と一緒に入りたいです」
「…………そうじゃなくて、先に入りたいか後に入りたいかって話だ」
なんの間も無しにそんなことを言ってくるから、俺の方が動揺してしまったけど、なんとか動揺を隠してそう言った。
「……そう、なんですか。……でしたら、お兄様の後で入りたいです」
すると、イリーゼは残念そうにしながらも、そう言ってきた。
いや、別に俺がいじめをしていたとか関係なく、一緒に風呂に入るのはおかしい事だからな? 分かってるよな? イリーゼなりの冗談ってことだよな? 信じてるからな?
……いや、一応言っておくか? イリーゼはろくな教育を受けていないはずだし、本気で言ってた可能性だってあるしな。
「イリーゼ」
「はい?」
「一応言っておくんだが、同性ならともかく、異性相手に一緒にお風呂に入ろうとか、今度からでいいから、もう絶対言っちゃダメだぞ」
「大丈夫ですよ。お兄様にしか言いませんから」
「……なら、いいか」
別に良くはないんだけど、俺に対しては冗談だろうし、そういうことを他人に言っちゃダメってことは分かってるっぽいし、もういいかと思って、俺は頷いた。
正直、色々と精神的にも疲れたし、一度風呂に入って落ち着きたいんだよ。
今は俺自身もちょっとおかしいし。
……当たり前の話なんだけど、イリーゼに一緒に風呂に入りたいと言われた時、一緒に入ると言わなかった俺を褒めてやりたいほど、今の俺はおかしいんだ。
「それじゃ、俺は風呂に入ってくるな」
「はい、分かりました。私は部屋に戻っておきますね」
「分かった。俺が上がったら後でメイドに……い、いや、俺が伝えに行くな」
「はい!」
メイドに伝えに行かせる。そう言おうとしたところで、何故か、俺の直感が働いて、メイドに任せるよりも俺が自分で言いに行った方がいいと思ってしまい、俺はそう言った。
……本当にこれでよかったのかは分からないが、イリーゼは笑顔だし、大丈夫、だよな。
少し心配になりながらも、俺は風呂場に向かった。
風呂場に着くと、ちゃんとメイドがお湯を貯めておいてくれていたのを確認してから、服を脱いだ。
「……はぁ。疲れた」
風呂に漬かりながら、呟くように俺はそう言った。
今日ほど人の心が読める魔道具があればいいなぁ、と思ったことはないよ。
そんなものがあれば、イリーゼが何を考えているか、全部分かるのに。
「お兄様」
そう考えていると、扉の向こうからイリーゼの俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
え? なんで?
「い、イリーゼ? どうした? 俺に何か用か?」
「はい、ちょうどメイドがお兄様の着替えを持っていこうとしていたので、そのメイドに変わり私がお兄様の着替えを持ってきたのです」
……尚更なんで?
「えっと、イリーゼ? 気持ちはありがたいんだけど、それはメイドの仕事だから、今度からは取らないようにな?」
イリーゼが俺のために持ってきてくれたのかは分からないけど、どんな意図であれ、それがメイドの仕事であることは間違いないから、俺はそう言った。
「大丈夫ですよ」
「……いや、何が?」
「メイドのことは大丈夫なんですよ」
「……えっと、よく分かんないけど、それだったら、ありがとう?」
別にイリーゼが持ってこなくても、メイドが持ってきてくれてたんだし、礼を言う必要は無いかもだけど、俺はそう言った。
こんなことで好感度を稼げるのなら、別にいいしな。
「そろそろ上がりたいから、出て行ってくれるか?」
「私は気にしませんよ?」
「俺が気にするんだよ」
「……そうですか」
なんとなく、声色が残念そうな気がするけど、気のせいだろ。
そう思いながらも、イリーゼが出て行ってくれたのを確認した俺は、風呂を上がった。
イリーゼはまだ部屋の外にいるだろうし、これでわざわざイリーゼの部屋まで行く手間が省けるな。
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