もう騙されててもいいんじゃないかな

「…………美味しかった、です」


 イリーゼの圧に負けた俺は、そのままイリーゼに料理を食べさせら続けた。

 ……正直、俺が食べる度に幸せそうにしているイリーゼを見ていると、もう騙されてもいいんじゃないかとすら思えてきている。


「良かったです。それでは、私も直ぐに食べちゃいますね」


「……い、イリーゼが良かったらなんだけど、俺が食べさせようか?」


 そんなことを思ってしまっていたからこそ、俺はそんなことを言ってしまったんだと思う。

 普通の状態だったら、絶対そんなこと言わないし、何か……イリーゼに、妹に料理を食べさせられるという羞恥心を経験したせいか、おかしくなっているのかもしれない。


「ぇ、よ、よろしいのですか?!」


「あ、あぁ、イリーゼがいいのなら」


「でしたら、是非お願いします」


「じ、じゃあ……はい、あーん」


 そうして、俺は料理をイリーゼが俺にやってきていたように、料理を乗せたスプーンをイリーゼの方に差し出した。

 すると、イリーゼは恥ずかしそうに少し頬を赤らめながらも、髪を片耳にかけながら食べてくれた。

 ……こんなこと俺が思う資格なんて無いってことは分かってるけど、可愛い。


「お、お兄様、そんなに見つめられては、恥ずかしいです……」


「え、あ、わ、悪い」


 俺がイリーゼに好意を向けられる要素なんて一つもないんだけど、こんなイリーゼの顔……というか、様子を見ていると、本当に勘違いしそうになる。

 好かれてるとは言わないけど、嫌われてはいないんじゃないか、と。


 そんなふざけたことを考えながらも、俺はイリーゼに料理を食べさせ続けた。




「……お兄様、美味しかったですね」


「……そ、そうだな」


 ……気まずい。

 いや、イリーゼはニコニコとしているし、そう感じているのは俺だけなのか。


「お、遅くなっちまったし、護衛も居ないんだから、早く帰るか」


「はい、分かりました。……また、手を繋いでもいいですか?」


「……イリーゼがいいのなら」


 今の俺は騙されてもいいって思っちまってるから、俺はそう言って頷いた。

 そしてそのまま、金を払って外に出ると、もう辺りは真っ暗だった。

 ……まぁ、一人ずつ食べさせあったんだから、当然っちゃ当然なんだけどさ。


「……ほら、行こうか」


「はい、お兄様」


 少し遠慮……と言うか、イリーゼに手を跳ね除けられるのを想像して怖がりながらも、俺はイリーゼに向かって手を差し出した。

 すると、イリーゼは直ぐに嬉しそうな顔をして、俺の手を優しくとってくれた。


「……」


「……」


 どうしよう。喋ることがない。

 イリーゼの顔を盗み見るけど、イリーゼは普通にニコニコとしていた。

 ……この状況、気まずくないのか? いや、別に気まずくないのなら無いで全然良いんだけどさ。


「お兄様、今日はありがとうございました」


「え、あ、うん。気にしないでくれ」


 いじめていたお詫び、みたいな意味もあったしな。

 礼を言われるのなんて筋違いもいいところだ。


「今まで生きてきた中で三番目くらいに幸せな時間でした」


 ……なんか、微妙じゃないか? いや、いじめていた俺との時間だと考えると、かなり有り得ない高順位なんだけどさ。

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