イリーゼさん、本気ですか?

「……イリーゼ、次からは、せめて人が来たら離れような?」


 店の人が料理を置いて、俺たちが借りている個室から出ていったのを確認した俺は、まだ俺に密着してきているイリーゼにそう言った。

 次なんてないかもだけどさ。


「どうしてですか?」


「……どうしてって、勘違い、されるからだよ。イリーゼだって嫌だろ」


「どうして私が嫌なんですか?」


 ……それを俺に聞くのか? ……答えは明確なんだけど、そんなこと、俺に答えられるわけないだろ。

 

「……それは、分かるだろ」


 そう思った俺は、イリーゼから目を逸らしながらそう言うのが精一杯だった。

 

「分かりません。ちゃんと答えてください」


 分からないわけないだろ。

 だって、イリーゼが一番よく分かってるはずなんだから。


「……そ、それは……悪かったよ」


「どうしてお兄様が謝るのですか? 意味がわかりません。私は、私が嫌がる理由を聞いているんですよ?」


「……せ、せっかく料理が来たんだから、冷める前に食べよう。な? イリーゼ」


 かなりわざとらしくはあるけど、イリーゼは俺が答えるまで同じことを聞いてくると察した俺は話を逸らす為にそう言った。

 

「では、私がお兄様に食べさせるということでよろしいんですね?」


「え? あ、いや……」


 そうだった。

 イリーゼが俺に答えにくいことを何回も聞いてくるから、そんな話になっていたことを忘れてた。

 

「ち、違ーー」


「違うんでしたら、ちゃんと私がお兄様とそういう関係だと思われて嫌がる理由を答えてください」


「違わない……かも、です」


「でしたら、大丈夫ですね!」


 満面の笑みを俺に向けて、イリーゼはそう言ってくる。

 ……何も大丈夫じゃ無い。……むしろ何が大丈夫なのかを聞かせて欲しいくらいだ。


「はい、お兄様、あーん、です」


「い、いや、あの、イリーゼ……さん。本気、ですか?」


「? 食べないんですか?」


「……食べる、けどさ」


 俺は黙ってイリーゼの目を見つめた。

 イリーゼが考え直してくれるように心の中で祈りながら。

 すると、イリーゼは何故か顔を赤らめはじめた。……いや、なんで?


「お、お兄様、嬉しいですけど、恥ずかしいです」


 ……何が嬉しいんだよ。

 ダメだ。本当に俺はイリーゼのことを知らなすぎる。

 もうどうとでもなれ。

 そう思って、俺はイリーゼが差し出してきていた料理を食べた。

 ……食べてから思ったんだけど、別に密着してたら食べにくいってだけで食べられないわけじゃないんだし、そのまま普通に食べればよかったんじゃないか? ……まだ一口しか食べてないし、全然間に合うな。


「思ったんだが、イリーゼ」


「はい、どうかしたんですか? お兄様」


「あぁ、別にイリーゼに食べさせてもらわなくたって、食べにくいだけで自分で食べれるなって思ったんだよ。イリーゼだって、冷めないうちに食べたいだろ? だから、お互い自分で食べよう」


「……お兄様に尽くすことが私の幸せです。料理が冷めようと、私は気にしません。なので、このまま続けますね。……はい、お兄様、あーんです」


 え、あの、え? 俺の話、聞いてた? ……というか、俺に尽くすことが幸せって、そんな見え透いた嘘には流石の俺も騙されないぞ?


「お兄様、冷めちゃいますよ」


 そう思っていると、イリーゼはそう言って、早く食べろと急かしてくる。

 いや、冷めるとかそういう問題じゃないだろ。

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