当たり前なわけないだろ

「……あの、イリーゼさん?」


「はい、どうかいたしましたかか? お兄様」


 いや、どうか致したも何も、なんで対面じゃなくて隣に座るんだよ。……しかもこんな密着した形で。


「……近くないか? お互い食べにくいと思うし、素直にあっちに座ろうな?」


 これじゃあせっかくさっき離れて貰ったのに、意味が無いし、俺はそう言った。


「大丈夫ですよ。私がお兄様に食べさせてあげますからね」


「……い、いや、それはダメ、だろ」


「どうしてですか?」


 どうしてって……俺がイリーゼをいじめてたから、だろ。

 ……いや、でも、そのいじめていた相手のイリーゼがそれでいいって言ってるんだから、いいのか? ……いや、ダメに決まってるだろ。

 いじめていたとかそういうのは一旦置いておくとして、俺たちは兄妹以前に異性だ。

 ダメに決まってる。

 そういうのは、恋人同士がするものだろ。

 少なくとも、兄妹では絶対にしない。


「俺たちが兄妹だからだよ」


 いじめていたとかそういうことは一旦置いておいてしまったからこそ、俺はそう言った。言ってしまっていた。

 イリーゼからしたら、俺と兄妹だなんて死ぬほど嫌に決まっているのに。


「だったら、いいじゃないですか。仲の良い兄妹でしたら、このくらい当たり前です」


「……当たり前なわけないだろ。男同士の兄弟ならともかく、俺たちは兄妹で、しかも血が繋がってないんだから、そんなのダメに決まってるだろ」


「そうですよ。血が繋がっていないんですから、尚更いいじゃないないですか」


 いや、本当に何を言っているんだ? 血が繋がっていないんだから、尚更ダメに決まってるだろ。

 イリーゼは俺より賢いんだから、それを分かってないはずが無いし、何か目的があるのか?


「ダメだって。とにかく、離れてあっちに座ってくれ」


「……どうして、そんなに嫌がるんですか? そんなに、私と体が密着しているのは嫌ですか? もう、私の事、嫌いになっちゃったんですか?」


 イリーゼは悲しそうに、そう言ってくる。

 嫌な訳が無い。イリーゼは超美少女で胸まで大きいんだから、密着されて嫌なわけが無い。

 ただ、こんなことを思ってしまう俺自身に俺は腹が立つんだよ。

 たまに怖いところはあるけど、それは全部俺の自業自得だし、イリーゼは本当にいい子なんだよ。

 そんな子を俺はいじめていた。

 なのに、こうやって体がくっついただけで嬉しいと思ってしまう俺に本当に腹が立つ。

 だから、ダメなんだよ。


「嫌とか、そういうのじゃないんだよ。……ダメ、なんだよ」


「つまり、嫌では無い、ということですか? お兄様」


「い、いや、だから、ダメだってーー」


「嫌、では無いんですよね?」


「……」


 なんでイリーゼはこんなに俺から離れたがらないんだよ。

 何か密着しないとかけられない呪いでもあるのか? ……俺にわざわざ自分で食べさせてまで俺から離れたがらない理由なんかそれくらいしか思いつかないぞ。


 そう思っていると、俺とイリーゼが居る個室の扉がノックされた。

 頼んだ料理が来たんだろう。


「イリーゼ、料理が来たから、せめて今だけでもーー」


「どうぞ」


 今だけでも離れてくれ。

 そう言おうとしたのに、イリーゼは俺の言葉を遮るようにして、一言そう言ってきた。


「失礼致します」


 すると、そんな一言を聞いた店の人は当然そのまま個室の中に入ってきた。

 イリーゼはまるで見せつけるようにして、俺に体を預けてくる。

 ……落ち着け。何もやましいことなんてない。兄妹なんだからな。血が繋がってないとか、異性とかはもう置いておこう。

 動揺するな。店の人に勘違いされたらどうするんだ。

 口止めしてあるとはいえ、万が一ってこともある。

 血が繋がってないんだし、もしもイリーゼが俺を嫌ってなかったとしたら、俺とイリーゼがただならぬ関係。……なんて噂が流れるのもどうでもよかったかもしれないけど、実際は違うし、そうならないためにも、動揺なんて見せちゃダメだ。

 堂々としていろ、俺。

 

 

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