本気で言ってるわけじゃないよな?
「……帰ろうとしていたのですか?」
「え?」
「一人で、私を置いて、一緒に帰ると約束した私を置いて、お兄様は一人で帰ろうとしていたのですか?」
そう、なんだけど、何故か俺は素直に頷くことが出来なかった。
イリーゼは俺の目を黙って見つめてくる。
逸らしたい。今すぐにでも目を逸らしたい。
そう思いつつも、俺はイリーゼから目をそらすことが出来なかった。
何故か、今だけは絶対に目を逸らしてはダメだと俺の本能が言ってるんだ。
「お兄様? どうして何も言ってくれないのですか?」
「あ、いや……ち、違うん、だよ」
「違うのですか?」
「あ、あぁ、違うんだよ」
何が違うっていうんだ。
自分で言っておきながら、訳が分からない。
俺は普通に一人で帰ろうとしてたし、何も違わないんだから。
「でしたら、約束通り一緒に帰りましょうか」
「え、あ、いや、そ、それは違うんじゃないか?」
「どうしてですか? 約束、しましたよね?」
「そ、それはそう、なんだけど……って、違う違う。俺、ちゃんと絶対じゃないって言っただろ」
危なかった。
あまりにもイリーゼが当たり前のことかのように言うから、つい流されそうになってしまった。
「そもそもの話、フェリシアンはどうするんだよ」
「誰ですか? それ」
「は? い、いや、誰って、冗談だろ? 今日も喋っただろ?」
「お兄様、そんなよく分からない人の話を出して誤魔化そうとしても無駄ですよ。早く一緒に帰りましょう」
いや、よく分からないって……え? 本気で言ってるわけじゃないよな?
さっきまで冗談だって思ってたけど、イリーゼの顔を見ると本気で誰かを理解していないような顔をしていて、冗談だと思えないんだけど。
「わ、分かった。もう最悪分からなくてもいいから、一度正門の方に行ってみないか?」
「どうしてですか? お兄様も一緒なら、全然大丈夫ですけど」
「あー、俺は後から行くから、先に行っておいてくれ」
ほんとは行く気なんてない。
なんなら、イリーゼが正門の方に行ったらそのまま帰る気だ。
いや、だってさ、イリーゼも流石にフェリシアンの顔を見たら思い出すだろうし、思い出したのなら、俺よりフェリシアンと帰りたいって思うだろ。
仮にイリーゼがフェリシアンに興味が無いんだとしても、嫌いなはずの俺と帰るよりは全然マシだろうしな。
「……本当ですか?」
「……ほんと、だけど」
「でしたら、もしも嘘だった場合はどうしますか?」
「え、いや、それは……」
「帰りましょうか、お兄様」
俺が直ぐに言葉を発せられないのを見たイリーゼは満面の笑みでそう言ってきた。
そしてそのまま、胸を押し当てるようにして、俺に腕に抱きついてきた。
「あ、あの、イリーゼさん? こ、これはどういうこと、ですか?」
「お兄様が逃げちゃいそうだったのでこうしたんですけど、ダメ、でしたか?」
「だ、ダメ、とかじゃなくて……わ、分かった。分かったよ。帰ろう。一緒に帰ろう。もうさっさと帰ろう」
決して、決して当たっているイリーゼの胸に負けた訳では無いけど、俺はそう言った。
別にイリーゼが俺と帰ろうとしてるのは俺のせいじゃないし。理由は分からないけど、俺のせいじゃないんだから、明日フェリシアンに何か言われたとしても、俺は知らぬ存ぜぬで突き通そう。
まぁ、イリーゼと一緒に帰るって決めた理由は、ほんとに胸に負けたとかじゃなくて、イリーゼを引き離す理由を思い浮かばなかったからなんだけどさ。
胸が当たってるから、とか言ったら、なんか兄妹なのに、しかも少し前までいじめてた立場なのに、俺がイリーゼを意識してるみたいで絶対気持ち悪がられただろうから、下手なことは言えなかったんだよ。
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