絶対じゃない

「お兄様、どうでしたか?」


 イリーゼの作ってくれた弁当を覚悟を決めて食べ終わると、隣で同じく弁当を食べ終わったイリーゼがニコニコとそう聞いてきた。


「え? あ、あぁ、美味しかったよ」


「いつも通り美味しかったようで良かったです」


 別にいつも美味しいなんて言ってないんだけど。

 ……いや、別にまずいと思ってたわけじゃないぞ? それでも、無理やり作らせてたものだし、いつも美味しいって言うのは違うと思ったんだよ。

 だから、言わなかったのに、何故かイリーゼには俺がいつも美味しいと言ったように脳内変換されていた。


 ……うん。なんで? ……いや、むしろ脳内変換をしているのは俺の方なのか? 本当は全くそんなことなんて言ってなくて、俺が傷つかないように勝手に都合のいいように脳内変換をしてるのか? ……うん。そっちの可能性の方が高いな。

 だって俺、イリーゼをいじめてた張本人だし。


「お互い食べ終わったし、教室に向かうか」


 もうほんとに時間もないしな。

 

「はいっ!」


 イリーゼは俺のそんな言葉に何故か元気よく頷いて、本当に何故か、何かを期待したような目で俺を見つめてくる。

 ……悪いんだけど、なんでイリーゼが俺をこんな目で見てきてるのか想像もつかないんだけど。

 一体俺にイリーゼが何を期待するっていうんだ? いじめてた相手だぞ? 強いて言うなら、苦しんで欲しいとかか? ……もしそんなことを思ってこんな期待したような目を向けられてるんだとしたら、俺は泣くぞ。いや、自業自得なんだけどさ。

 ……と言うか、もしも俺の想像通りなんだとしたら、やっぱりさっきの弁当に何か入れられてたってことになるぞ。

 少しづつ苦しめる毒とかそういうのを。

 その効果を期待してこんな目を向けてきてるのかも。

 

「……嫌、でしたか?」


 そうして俺は黙り込んでイリーゼがそんな目を向けてくる理由を考えていると、悲しそうに、イリーゼはそう聞いてきた。

 いや、何が?


「悪い。何がだ?」


「さっき、手を繋いでくれるって言ってくれたじゃないですか」


「……さっきって、弁当を食べる前か? それだったら、ちゃんと握っただろ」


「そう、ですけど、お兄様が嫌じゃないのなら、手を繋いで教室に行きたいです」


「それは……むしろ、イリーゼの方こそいいのか?」


「当たり前です! 私の方が望んでいるのですから、当然です」


 ……まぁ、もういじめをしていない。今はもう仲良くしているんだ。ってことを見せつける意味でも、イリーゼがいいって言うのなら、好都合だな。

 そう思った俺は、俺が断ると思っているのか悲しそうな雰囲気を醸し出しているイリーゼの手をゆっくりと握った。


「授業が始まる前にさっさと行くぞ」


「は、はいっ!」


 すると、さっきの悲しそうな様子が嘘みたいに笑顔になって、頷いてくれた。


 そして、イリーゼと手を繋ぎながらイリーゼの教室の前まで来たところで俺は思った。

 別に手を繋ぐ必要はなかったんじゃないか? 普通に隣同士に歩いてれば、もういじめはしてないんだって、分かってくれてただろ。

 妹とはいえ、血が繋がってないんだから、異性だ。そんな異性と手を繋ぐなんて、まるで恋人みたいじゃないか。

 

「お兄様? どうかしたんですか?」


「あ、いや、なんでもないよ」


 まぁ、イリーゼにそんな気があるわけ無いだろうし、別にいいのか。

 周りの奴らにはもういじめてないことさえ伝わってくれれば別にいいし。


「それじゃあ、俺も自分の教室に戻るから」


「……はい、分かりました。また帰るときに会いましょう」


「……あー、そう、だな。一緒に帰るのは全然いいんだけど、絶対じゃないからな? 他に一緒に帰りたい奴がいたらそっちを優先してくれて全然大丈夫だからな? 俺はイリーゼ以外にも一緒に帰るやつくらい居るしな」


「私、以外……? どういうことですか? お兄様。私はお兄様以外と帰る気なんてありませんし、お兄様も私以外と帰る気なんてありませんよね? いつも、そうですもんね?」


「も、もしもの話だよ。俺と一緒に帰るのが絶対じゃないってことを伝えたかっただけだから。……と、とにかく、俺はもう教室に行くな」


 何故か様子の変わったイリーゼから繋いでいた手を離して、俺は逃げるようにして自分の教室に向かった。

 ……もしかしてだが、嘘をついたのがバレたのか? イリーゼ以外にも一緒に帰るやつがいるって話、こんなの完全に嘘だしな。しかも、少し考えたら簡単にわかるような嘘だ。


 だって、俺に友達がいないとかそういうの以前に、普通の貴族は馬車で登下校をしてるんだ。歩いてきた俺と一緒に帰るやつなんて、仮に俺に友達がいたんだとしても、居ないんだよ。一応、平民と俺が友達って可能性もあるにはあるけど、そんなのはありえない可能性だ。

 平民だって、平気で自分の妹をいじめるような奴とは友達……どころか、関わり合いにすらなりたくないだろうし、俺もわざわざ怯えられるために平民に話しかけたりしない。

 イリーゼは瞬時にそう考えたんだろうな。

 だから、そんな簡単にわかるような嘘でイリーゼに気を使おうとしたのがバレたんだろう。いきなりイリーゼがあんな感じの雰囲気になったはそういうことなんだろうな。

 俺なんかの……嫌いな相手からの気遣いなんて気持ち悪いだけだろうし、後で謝るか。

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 あとがき。

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