なんで俺に怒ってるんだ?
「おい、お前! お前はまだイリーゼにそんな幼稚なことをしているのか」
白髪の男……フェリシアン・マルシェがそう言って俺たちに近づいてきた。
……めんどくさいのが来たな。爵位も公爵で、俺たちより高いし。
いや、めんどくさいと言っても、こいつの言ってることは割と的を得てるんだよな。
少し前までイリーゼをいじめていた俺が言うのもなんだけど、いじめとか、ほんとに我がことながら幼稚だと思うし。
「フェリシアン様、それは勘違いですよ。フェリシアン様が言う幼稚なことなんてもう私はやめましたからね」
そう思った俺は、身分が上っていうのと、単純にフェリシアンが言ってることはおかしなことでは無いから、丁寧にそう言った。
「ならば何故イリーゼをこの教室に呼び、わざわざそんな見せつけるように近く隣に座らせているんだ!」
……それに関しては、むしろ俺が聞きたいくらいだ。
いや、そもそもの話、別に隣に座れなんて言うどころか、この教室に来いとすら言ってないしな。
「フェリシアン様、それも勘違いですよ。イリーゼがここにいるのはイリーゼの意思ですからね。なぁ、イリーゼ?」
「はい、あなたの勘違いです。さっさと消えてください」
……い、イリーゼさん? なんでそんなに言葉がきついんですか? 悪いのは俺の方だし、相手は身分が上なんだけど? ……と言うか、フェリシアンはイリーゼの為にこんなことを言ってきてるんだと思うぞ? 何度も言うけど、悪いのはいじめなんてことをしていた俺だし。
「と、取り絶えず、フェリシアン様の勘違いであることは間違いないみたいですよ。……言葉遣いに関しては、後でこちらで教育しておきます」
「ふ、ふざけるな!」
「……はい、申し訳ありません。先程も申しましたが、イリーゼの言葉遣いに関してはちゃんと言い聞かせますので、今回だけは許してください」
フェリシアンが怒るのも仕方ないだろう。
身分じゃこっちの方が下なわけだし、フェリシアンからしたらイリーゼの為に言った言葉なのに、いくら勘違いとはいえ、当のイリーゼにそんな言われ方をしたら腹も立つだろう。
「違う! 俺はお前に言っているのだ!」
……俺に? ……なんで? 言葉遣いは別に問題なかったはずだよな? ……もしかして、内心でフェリシアンのことを呼び捨てにしているのがバレたか? ……いや、そんなわけないよな。だったら、なんでフェリシアンは俺に怒ってるんだ?
「私、ですか?」
「お前以外に誰がいるというのだ! どうせお前がイリーゼにそう言うように最初から言っていたのだろう。それをあたかもイリーゼのミスのせいにしようとするなど……恥を知れ!」
……えぇ、そんなわけないでしょ。さっきも言ったけど、もういじめなんてことはやめたし、仮にまだいじめを続けてたんだとしても、わざわざそんな命令なんてしてないよ。俺、そこまで頭良くないし。
「えっと、さっきから何度も言ってますが、それも勘違いですよ、フェリシアン様」
「そんなわけないだろう!」
「そんな訳あります。お兄様は間違いません」
いや、それは違うぞ? イリーゼ。
なんなら、俺は間違ってばっかりだからな?
「イリーゼ、もうすぐ次の授業が始まるから、戻ってくれ」
「分かりました。次の休み時間も来ますね?」
「おい! 俺を無視して話を進めようとするな! イリーゼはこんなやつの居るところに来なくてもいいからな」
それは俺もそう思う。
普通、自分をいじめてた相手のところに好きでくるなんて、ありえないもんな。
「……」
「それでは、また直ぐに会いましょうね、お兄様」
俺の沈黙を肯定と受け取ったのか、イリーゼはそう言って教室をかなり名残惜しそうにしながらも、出ていった。フェリシアンを完全に無視しながら。
……まぁ、名残惜しそうっていうのは気のせいだと思うけど。
普通、自分のことをいじめていた存在がいる空間なんか一秒でも早く出たいはずだからな。
仮にそれがイリーゼの方から来ていたんだとしても、何か裏があるに決まってるんだから。
……まぁ、俺はそれでも、イリーゼが許してくれるのなら、それがおこがましいことなんだとしても、少しでも仲良くなりたいから、俺にとっては何か裏があるんだとしても、嬉しいことだからな。
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