いや、近くない? 俺、あなたをいじめてた相手ですよ?

 イリーゼと別れて、自分のクラスに着いた俺は、黙って後ろの方の席に座った。

 さっきイリーゼに友達が居なさそうとか色々思ってたけど、俺も居ないんだよ。友達。

 侯爵家の息子っていう肩書きに寄ってくる奴らはいっぱいいるけど、流石に権力に群がってくる奴らを友達とは言えないしな。

 

 じゃあ、権力に群がってこない奴と友達になりに行けよ、とか思われるかもしれないけど、それは無理だ。

 そういう奴らは大抵俺より権力が高い……公爵だったり王族だったりするし、逆に俺によってこないのに俺より権力が低い奴らは俺を普通に嫌ってる。

 いや、だって妹を虐めるような奴だぞ? 俺。まともな神経をしてたら友達になりたいと思うか? 思わねぇよ。

 つまり、それが答えだ。

 そういうわけで、俺は友達が居ない。

 もういじめなんてことはやめたとはいえ、今更感がすごいしな。

 



 そんなこんなで、俺は相変わらず一人の俺より権力が高い男に睨まれながらも、ぼっちで授業を受けた。

 そして、取り敢えず最初の授業が終わった。


 ……今更だけど、イリーゼに教室に来てもらうんじゃなくて、違う場所でイリーゼと待ち合わせしたら良かったな。

 せっかくいじめをやめたのに、今ここにイリーゼが来たら、はたから見たらまだ俺がイリーゼをいじめてるみたいじゃないか。

 ……いや、むしろ俺が普通にイリーゼと話をしてたら、もういじめなんてしてないって分かってもらえるか? わからんけど、その可能性はあるか。

 もしももう俺がイリーゼをいじめていないってことをわかって貰えたら、イリーゼにも友達が出来るかもしれないし……ありだな。

 無能とかいうふざけた噂を気にせずに友達になってくれる人がいるかもしれないもんな。


「お待たせしました。お兄様」


 そんなことをボケーッと思っていると、いつの間にか、イリーゼがそう言って俺の隣に立っていた。

 

「……一応言っとくけど、イリーゼも座っていいんだからな?」


「よろしいのですか?」


「言ってるだろ。もう好きにしていいって」


「ほんとにいいんですか?」


「あぁ、イリーゼのしたいようにしたらいいよ」


 もう何度も言ってることではあるんだけど、イリーゼからの信用なんて無いだろうから、俺は改めてそう言った。

 

「ありがとうございます」


 すると、イリーゼはそう言って、肩と肩が触れ合うような距離感で隣に座ってきた。

 いや、近くないですか? 俺、あなたをいじめてた相手ですよ? ……いや、仮に俺がイリーゼをいじめていなかったとしても、男女の距離感では無いぞ。


「い、イリーゼ? 流石に近すぎるから、少し離れような?」


 そう思った俺は、そう言った。

 人の目もあるしな。恥ずかしいって。普通に。


「? 好きにしていいんじゃ無いんですか?」


「それは……そう、なんだけど、男女の距離感ってやつがあるだろ?」


「私たちは兄妹ですよね?」


「兄妹でも、血は繋がってないし、仮に繋がってたとしても、適切な距離ってやつがある。分かるだろ?」


 イリーゼは俺なんかよりもずっと賢いし、直ぐに理解してくれると思って、俺はそう言った。


「分かりません。それに、私はこのままがいいんです。……それとも、お兄様は私と体が密着するのが嫌なんですか?」


「い、いや、そういう訳じゃないんだけど……周りの目、とかがあるしな?」


「そんなもの、気にしなくても大丈夫ですよ。お兄様以外の人間なんて等しく価値なんて無いんですから」


 ……ん? なんか、イリーゼがとんでもないことを言ってないか?

 いやいや、流石に気のせいか。そんなわけないもんな。

 イリーゼのことをいじめてた相手だし、俺。

 うん。それを加味して、絶対に俺の聞き間違いだと分かるな。


「おい、お前! お前はまだイリーゼにそんな幼稚なことをしているのか」


 そう思っていると、白髪の男……フェリシアン・マルシェがそう言って俺たちに近づいてきた。

 ……めんどくさいのが来たな。爵位も公爵で、俺たちより高いし。


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