学園でも好きにしてくれていいから
「学園にも着いたことだし、そろそろ離れてくれるか? イリーゼ」
イリーゼに腕に抱きつかれながら、無事に学園に登校してきた俺はそう言った。
「……はい。仕方ありません」
すると、イリーゼは残念そうにそう言って、腕に抱きつくのはやめてくれた。……距離感は明らかに普通よりも近いが。
「イリーゼのクラスからでいいか?」
「え? ご一緒に来てくださるのですか?!」
俺がそう言うと、イリーゼは驚いた様子を見せながら、そう言ってきた。
……そんなに驚くようなことか? ……いや、驚くようなことなんだろうな。
いつもは一緒に学園に行くどころか、イリーゼのクラスに顔すら出したことなんて無いもんな。
「あぁ、イリーゼが嫌じゃないのなら、一緒に行こうか」
「はい! 嫌な訳ありません。行きましょう」
俺はイリーゼに断られなかったことに安堵しつつ、一緒にイリーゼのクラスに向かった。
少しでも、イリーゼの好感度を上げておきたいからな。
「ユーリ様、何故そのようなものとご一緒に歩かれているのですか? そんな者と一緒に歩くなど、ユーリ様の品性が疑われてしまいますよ?」
そう思って、嬉しそうにしているイリーゼとイリーゼのクラスに行くために歩いていると、俺と同じクラスの女の子……確か、ルミーズ・アーシャがイリーゼに蔑むような笑みを浮かべながら、俺……ユーリ・アヴァルチャフに向かってそんなことを言ってきた。
確か、伯爵令嬢だったよな。
一応俺は侯爵の息子だ。そして、隣にいるイリーゼは俺の妹ではあるけど、世間では無能と呼ばれるような存在だ。
だからこそ、こうやって誰かが何かを言ってくることは想定できていた。
つい最近までは俺もイリーゼを無能だと言って色々と面倒なことを無理やりやらせていたしな。
「イリーゼは俺の妹だ。次、ふざけたことを言ったら許す気は無い」
「ぇ?」
少し魔力を出しながら、俺は目の前の伯爵令嬢に冷たい目を向け、そう言った。
目の前の伯爵令嬢からしたらかなり理不尽だろう。
だって、さっきも言ったけど、ついこの間までは俺もイリーゼをいじめていたんだからな。
ただ、悪いな。今の俺はもう目覚めたんだ。
イリーゼは無能なんかじゃないし、仮に、本当に何も才能のない無能であったとしても、いじめていい理由にはならないってことにな。
「行くぞ、イリーゼ」
「は、はいっ!」
そうして、目の前で絶句している伯爵令嬢を置いて、俺たちはイリーゼのクラスに向かって歩き出した。
隣にいるイリーゼはこれでもかと言うくらい嬉しそうにしている。
喜んでくれてるのは良かったと思うけど、これに関しては当然のことだしな。ちょっと怖いけど、可愛い妹なんだから、守るのは当然だ。……今までは俺が伯爵令嬢側だったけど、おかしかったのは今までの俺だからな。
「それじゃあ、俺は自分のクラスに行くな」
イリーゼのクラスに着いた俺は、そう言った。
「……はい、分かりました。……休み時間になりましたら、いつも通り直ぐにお兄様の元へ向かいますね」
すると、イリーゼはそんなことを言ってきた。
「い、いや、今日からは来なくてもいいよ」
「ぇ?」
もうイリーゼをいじめる気なんて無い。
だからこそ、俺はそう言った。
すると、イリーゼはさっきの伯爵令嬢みたいに……いや、さっきの伯爵令嬢以上に困惑した様子を見せてきた。
……やっぱり、信用してもらえてなかったんだな。
そんなイリーゼの様子を見た俺がそう思っていると、イリーゼは口を開いた。
「どうして、ですか?」
「どうしてって、言っただろ? 今日からはイリーゼの好きに生きていいって。……ほら、俺なんかに関わるより、友達とか……い、いや、何でもない。……と、とにかく、今日からは家でも学園でもイリーゼの好きにしてくれたらいいから」
俺なんかに関わるより、友達とか過ごした方がいいだろう、的なことを言おうとして、俺はやめた。
……いや、だってさ、俺と俺の両親たちのせいでイリーゼは世間では無能と蔑まれているんだぞ? いるのか? 友達。
……分からない。
分からないからこそ、そこには触れない方がいいと思ったから、やめた。
「好きにしていいのなら、お兄様の元へ行きます」
「え、いや、でも……」
「好きにしてはダメなのですか?」
「い、いや、好きにしてくれ」
「でしたら、休み時間になり次第、お兄様の元へ足を運ばせてもらいますね」
イリーゼは有無を言わせない様子でそう言ってきた。
……やっぱり、友達、居ないのか? もし友達が一人でも居るのなら、いじめていた相手の俺のところになんて来ないだろうし、そう、なんだろうな。
「……分かった。待ってるよ」
「はいっ」
そう思った俺が頷くと、イリーゼは嬉しそうに頷いてくれた。
まぁ、チャンスだと思えばいいか。……できるかは分からないけど、イリーゼと少しでも仲良くなるいい機会だしな。
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