改めて思う。なんで俺、あんな子をいじめてたんだろうな

「そ、それじゃあ、イリーゼももう部屋に戻ろうな?」


俺が鍵を閉め忘れてただけなら泥棒の心配をする必要は無いし、俺はイリーゼに向かってそう言った。

 さっきは意味が分からなかったけど、多分イリーゼは俺を怖がって俺のところに来たんだと思う。

 俺はイリーゼをいじめてた相手だからな。そんな自分のことをいじめてきていた相手にいきなりもう好きにしていいなんて言われても信用出来るわけないし、それも仕方ないことだろう。だから、改めてもう用は無いんだよ、と伝えることによって、少しは信用してくれる……はずだ。

 そう思って。


「それは命令、ですか?」


 すると、俺の言葉を聞いたイリーゼはそんなことを聞いてきた。

 

「い、いや、もう俺はイリーゼに命令なんてしないって言っただろ。だから、命令では無いよ」


「でしたら、まだ……いえ、一生お兄様と一緒にお兄様の部屋に居ても大丈夫ですよね」


 えっと、ん? ……一生? ……い、いや、一生俺と一緒にこの部屋にいるなんて意味わかんないし、気のせい……聞き間違い、かな。

 

「……悪い。上手く聞き取れなかったから、もう一回言ってもらってもいいか?」


 そう思った俺は、イリーゼに謝りながらも、そう言った。

 

「はい、もちろんですよ。私は一生お兄様の半径2m以内に生きていたいと言ったんですよ」


 すると、イリーゼはそう言ってきた。

 ……俺がさっき聞き取れた言葉とは違うけど、これはこれで違くないか? ……いや、二回連続で俺が聞き間違えた、なんてことないとは思うけど、聞き間違いじゃなかったらもう意味がわからないんだが?

 

「……お、面白い冗談、だな」


 俺はもう訳が分からなくて、そう言うのは精一杯だった。

 ただ、何も考えずに言った訳ではない。冗談っていうのは、割と本気でいい線いってるんじゃないかとすら思ってるくらいだ。

 だって、何度も言うけど、俺はイリーゼをいじめてた相手なんだぞ? そんな俺の半径2m以内に一生きていたいなんて、意味わかんないだろ。

 だからこそ、冗談だって考えるのが普通なんだよ。


「……冗談?」


 そう思っていると、イリーゼはまたあの時みたいに雰囲気を変えて、謎の圧を醸し出してきながらそう言ってきた。


「じ、冗談、だろ?」


 俺は内心に渦巻く謎の恐怖心を誤魔化しながらも、なんとかイリーゼにそう言聞いた。

 顔がひきつりそうになる。……でも、大丈夫だ。イリーゼはきっと頷いてくれるはずだ。だから、大丈夫なんだ。タチの悪い冗談に決まってるんだから。


「私がお兄様に対してそんなくだらない冗談を言うと思いますか?」


 神にもすがる思いでイリーゼに頷いてくれ、と祈っていると、イリーゼはそんなことを言ってきた。

 ……言うと思ったから、聞いたんだよ。……と言うか、言ってて欲しいんだよ。


「……その、言う……と思い、ます」


 そう思いながら、俺は声が震えないように意識しながらも、頷いた。


「ふふ、そうですか。そうなんですね。お兄様は、私がお兄様に対してそんなくだらない冗談を言うと思っていたんですね」


 すると、一気に俺の部屋の温度が下がった気がした。

 体が震えそうになる。……寒いからだ。そうに決まってる。さっきから、それこそ、イリーゼが部屋に来る前から、寒かったしな。……うん。寒かった。最初から寒かったんだ。


「ち、違っ、違うん、ですよ」

 

 何かを言わなければならない。

 そう思った俺は、思わず敬語になってしまいながらも、そう言ってなんとか言い訳を考えた。


「何が違うんですか? お兄様?」


「じ、冗談、なんだよ。お、俺の方こそ、ごめんな? こんなくだらない冗談を言って」


 そして、俺は問い詰めてくるイリーゼに向かってそう言った。

 大丈夫、だよな? いや、別に大丈夫じゃなかったからって、何かがあるって訳じゃないんだろうけど、今のイリーゼの雰囲気を見てると……感じていると、何かがあるんじゃないかと勘ぐってしまって、怖いんだよ。


「冗、談?」


「そ、そう、だよ」


「ふふ、なんだ。冗談だったんですね。お兄様」


 すると、俺の言葉を聞いたイリーゼはさっきまでの雰囲気が全て幻だったかのように笑顔になって、そう言ってきた。

 それと同時に、寒気が無くなった。……あれだ。夜、だからな。夜だからに決まってる。……理由は分からないけど、夜だからだ。


「でも、お兄様、私はお兄様の冗談に酷く傷つきました。慰めてもらう必要があります」


 俺が内心でそんな現実逃避……いや、事実を考えていると、イリーゼは甘えるような声を出して、そう言ってきた。

 

「な、何をしたらいい?」


 今の俺にイリーゼのお願いを断る勇気なんて無い。

 だから、そう聞いた。


「明日、久しぶりに一緒に学園に行きましょう」


「わ、分かった」


「やったぁ。それでは、明日はよろしくお願いしますねっ」


「あ、あぁ」


 そうして、イリーゼは少し名残惜しそうにしながらも、俺の部屋を出て、自分の部屋に戻って行った。

 ……改めて思う。

 なんで俺は、あんな子をいじめてたんだろう。……そもそも、なんであんな子を俺なんかがいじめることが出来てたんだろう。と。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 あとがき。

 少しでも面白いと思って頂けたのなら、作者のモチベの為にも☆や♡をお願いします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る