俺、これからは好きにしていいってちゃんと言ったよな?

 イリーゼに謝罪をしてから、一日の時間が経った。

 学校にいる間、イリーゼは昨日のことなんて無かったかのようにいつも通りに過ごしていた。

 俺もそんなイリーゼを見習って、いつも通りに過ごそうとしてたんだけど、どうしてもイリーゼの方にチラチラと視線を向けてしまっていた。

 

 いや、だってさ、昨日はイリーゼの圧で思わず頷いてしまったけど、絶対おかしい、よな。

 だってイリーゼからしたら、俺はずっと自分のことをいじめていた相手なんだぞ? そんな相手に一生一緒に居てくださいとか、償いの意味が分からないとか、普通は言わないだろ。

 ……やっぱり、何かを企んでるのか? 俺への復讐とか。いや、俺だけじゃないな。父様や母様に対してもか。


「仕方ないっちゃ仕方ないのか」


 そう思った俺は、思わず呟くようにそう言った。


「何が仕方ないのですか? お兄様」


「うわっ! え? は? い、イリーゼ? な、なんでいるんだ?」


 すると、いきなり後ろからそんな声が聞こえてきたから、びっくりして声を裏返りさせながらも俺は反射的にそう言った。

 いや、ほんとになんでいるんだ? いつもは……と言うか、イリーゼのことをいじめていた時はなんか色々と面倒なことをやらせるために部屋に呼んでたけど、今日は呼んでないぞ? なんなら、これからは俺の命令なんて聞かなくていいから、イリーゼの好きにしてくれ、みたいなことも言ったはずだぞ? なんでいるんだよ。……そもそも、俺、ちゃんと扉閉めてたよな? なんなら鍵まで掛けて閉めてたよな? いつどうやって入ってきたんだよ。


「ダメ、でしたか?」


「い、いや、ダメとかじゃなくて、これからは好きにしていいって俺ちゃんと言ったよな? もうわざわざ俺の部屋なんて来なくていいんだぞ?」


 何故か悲しそうにそう言ってくるイリーゼに向かって、俺はそう言った。

 今までイリーゼにやらせていた雑用だってもう全部俺が終わらせてるしな。……今までこんなことやったことなんて無かったし、イリーゼにやらせてた時の方が綺麗に出来てたけど、こればっかりは仕方ない。今からでも、頑張って行くよ。


「はい、ですから、お兄様の部屋に来たんです」


 すると、イリーゼはさも当たり前のことかのようにそう言ってきた。

 ダメだ。本当に意味が分からん。

 ……取り敢えず、どうやって部屋の中に入ったかを聞くか? 絶対扉が開く音なんてしてなかったし、窓だって閉まってる。よし、まずはそれを聞こう。……もし何か抜け道があるんだとしたら、本当に泥棒か何かが来る可能性があって怖いし、それは聞いておかないとな。


「……分かった。いや、分からないけど、取り敢えず分かった。……その話は一旦置いておくとして、どうやってこの部屋に入ったのかを聞いても大丈夫か?」


「? 普通に扉からですよ、お兄様」


 俺がそう聞くと、イリーゼはまた何を当たり前のことを? と言った感じにそう言ってくる。

 ……いや、鍵を掛けてたから、俺はそう聞いてるんだけど。


「えっと、俺、鍵閉めてたよな?」


「いえ、鍵なんて閉まってませんでしたよ? 閉め忘れていたのではないですか?」


 俺がそう聞くと、イリーゼは嘘をついてるような様子なんて一切見せずにそう言ってきた。

 え、あ、そうか。俺が単純に鍵を閉め忘れてたから、イリーゼは普通に部屋の中に入ってこれたのか。

 まぁ、普通に考えたらそうだよな。俺がちゃんと鍵を閉めてたら、今イリーゼはこの部屋の中に入ってこれてないもんな。

 ……ちゃんと鍵を掛けてた気がするけど、そんなわけないもんな。うん。そうに決まってる。俺が忘れてただけだ。


「そ、それじゃあ、イリーゼももう部屋に戻ろうな?」


 そして、俺が鍵を閉め忘れてただけなら泥棒の心配をする必要は無いし、俺はイリーゼに向かってそう言った。

 さっきは意味が分からなかったけど、多分イリーゼは俺を怖がって俺のところに来たんだと思う。

 俺はイリーゼをいじめてた相手だからな。そんな自分のことをいじめてきていた相手にいきなりもう好きにしていいなんて言われても信用出来るわけないし、それも仕方ないことだろう。だから、改めてもう用は無いんだよ、と伝えることによって、少しは信用してくれる……はずだ。

 そう思って。



 

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