第28話 マッチポイント


 2-4


 二回連続でリターンエースを決められている。ここで一発、勝負を決めに行きたいところ。


 ふわりと浮かんだトス。センターに入ったサーブは高くバウンドする。難しボールだが、ビート選手は難なく返球。クロスラリーの応酬だ。


 と、ここで僅かにビート選手のボールがラインを超えていたようで、アウトのコールがかかった。


 3-4


 このミスが響いたのか、隼人さんは怒涛の追い上げをみせる。


 6-4


 マッチポイントだ。


 このポイントを取れば隼人さんの勝ち。大事なポイントに隼人さんも緊張を隠せないようで、ひとつ息を深く吐いた。


 ファーストサーブ。


 決まった――と思ったがレットのコール。どうやらネットに掠っていたようだ。


 二度目のファーストサーブ。


 僅かにサービスラインをオーバー。セカンドサーブとなる。


 ファーストサーブよりも回転量重視のセカンドサーブはスミス選手のボディ目掛けてバウンドする。


 さすがに取られれば負けるというポイントで無理な攻めはしないのか、リターンエースを狙うような返球ではなく、サーバーの隼人さんが主導権を握ったままラリー勝負が始まった。


 攻める隼人さんと守りに入るビート選手。ラリーの展開は終始、この構図のまま続いている。


 観客席から見ている俺でも感じる、ビート選手の守りの固さ。ラリーをしている隼人さんは俺よりももっと感じているだろう。


 それほどに安定感のあるストロークだ。フォア、バックともに付け入る隙が見当たらない。


 どうにか隙を作ろうとしたのか、隼人さんはここで強引に攻めに出た。ストレートに叩き込んだボールはビート選手の逆サイドに突き刺さる。


 が、それを読んでいたのかビート選手はワープするかのようなスピードで滑りながらも浅いサイドライン際へのバックスピンで対処。


 コートの外へ飛び出すような軌道のボールに隼人さんは足を止め、空を仰いだ。


 なんという勝負勘。今のボールは決まったと思っただけに隼人さんの落胆も大きいだろう。


 6-5


 しかし。まだ、隼人さんのマッチポイントだ。

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