第25話 ビート・スミス
コートチェンジをして二ゲーム目。ビート選手のサーブから試合は始まる。
オールラウンダーのビート選手。その中でもサーブアンドボレーの完成度が非常に高いことも知られている。。百八十五センチから振り下ろされるビッグサーブは、最高時速二百二十キロmを超え、相手に鋭いレシーブを許さない。
甘く返したレシーブは前に出てきたビート選手に簡単に捌かれてしまう。
対策は主に三つ。
攻めるならば、ストレートにレシーブを返す。相手を横に走らせることで、前に出る隙を与えない。デメリットはアウトやネットミスの確率が高くなることだ。
守るならば、軌道の高いロブをコート深くへと返球する。安定性はあるが、相手に主導権を渡してしまうため、その後のストローク勝負が不利になる。
ベターな選択は、サーバーが前へ出てきたところで足下にバウンドするようなボールを返すことだ。足元のボレーは難しいのもあるが、打ち返すにもボールがネットを超えるために浮かび上がりやすく、チャンスボールとなりやすい。ただ、そればかり狙っているとドロップショットを打たれることもある。
そんなことを考えながら、コートチェンジを見守る。
ビート選手のサーブを返球するために、隼人さんはコートより二歩後ろに位置を取った。
ゲームカウント0-1
ビート選手がトスを上げる。惚れ惚れするほどに綺麗なトロフィーポーズだ。力みがまったく見当たらない。それでいてスイングスピードは凄まじく、ややフラット気味で放たれたサーブは一瞬で、ベースラインの後方にいた隼人さんにまで届いた。
フォアハンド側に若干の横回転がかかったボールはバウンドし、コート外へ少し逸れながら隼人さんの右側へバウンドする。
隼人さんはそれに対して、一歩、二歩と最小の歩数で打点へと近く。振り出したフォアハンドストロークは完全にタイミングが合っていた。
アウトをしないようにスピンのかかったボールは、ラケット一個分の余裕を持ってネット上を通り過ぎた。サイドラインをボール一個分内側にバウンドし、ファーストサーブで少し姿勢を崩す形になったビート選手は見ているだけとなった。
リターンエースが決まった。
「うぉ…………」
思わず息を飲むほどの完璧なプレーだ。一瞬、観客席は静まり返る。
世界ランキング一位のビッグサーブに対して、日本人の隼人さんが完璧に決めた一球。
次第に観客からは驚きの声と歓声があがっていった。
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