第24話 大会当日


 隼人さんの出場するジャパンオープン開催当日。

 秋に開催されるこの大会は東京にあるドーム型のテニススタジアムにて行われる。


 隼人さんの出場する試合は今日の初戦。

 予選は既に終わりっており、これに勝てばベスト十六となる。


「楽しみだね、たまきくん!」

「うん。早く始まらないかな……」


 初めて生で見るプロの試合。出場する訳でもないのになんだか緊張してきた。


 美月ちゃんと話していると、試合開始の時間になり選手が入場してきた。


 いつも優しい雰囲気の隼人さんの目は鋭い。その視線の先には対戦相手であるビート・スミス選手がいた。


「パパー、頑張って!」


 美月ちゃんの声に、隼人さんは右手のラケットを持ち上げて応えた。


 サービスは幸先よく、隼人さんだ。


 両者が位置につき、観客の声は徐々に静まる。


「ザ ベスト オブ 3セット マッチ 御子柴サービス トゥー プレイ!」


 審判のコールがテニスコートに響き渡る。


 試合開始だ。


 ボールを二回、三回とバウンドさせた隼人さんはゆっくりとトスを上げた。


「ハッ!」


 音と共にボールは一瞬でコートの真ん中に突き刺さる。ビート・スミス選手のバックハンドを狙ったファーストサーブ。それは綺麗にライン上をバウンドし、通り過ぎた。


「サービスエース!」


 一斉に会場が沸いた。

 プロのテニス選手としては決して高いとは言えない身長の隼人さんだが、そのサーブは凄い威力で、時速二百キロメートルはゆうに超えている。


 15-0


 二ポイント目。隼人さんのファーストサーブはセンターへと決まる。それを抑え気味にストレートへリターンするビート選手。


 少し走らされた隼人さんはそのボールをクロスへ返球した。


 シングルスでは如何にオープンコートを作り、そこへ決め球を打てるかが重要になってくる。

 相手を左右に振り、空いた片側のコートへ勢いのあるストレートを決める。これがストローク勝負の基本だ。


 繰り広げられるストロークの応酬を固唾を飲んで見守る。テレビで見るのとはまるで比較にならないスピード感だ。


 クロスラリーの中でビート選手は角度をつけたボールを浅い場所へ打つ。それをストレートへ隼人さんが上手く運んだ。


 ビート選手はそのボールにギリギリ追いついたが、緩く上がったそのボールは、いつの間になコート前方へ来ていた隼人さんのスマッシュの餌食になった。


 30-0


 プレーの安定感は流石の世界ランキング一位と言うべきかビート選手に軍配が上がる。しかし勢いに関しては隼人さんにある。その見方は間違っていなかったようで、一ゲーム目は隼人さんが勝ち取ったのだった。

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