第23話 最強のオールラウンダー


 小学三年生になった。

 俺たち二人は相変わらずテニス漬けの生活を送っている。


 秋も半ばという十月のある日。

 いつものコートでテニスをしていた俺と美月ちゃんを迎えに来た美月ちゃんの父親である隼人さんが言った。


「環くん。もし、良かったら今度、美月と一緒に試合を見にこないかい?」


「え!? 良いんですか?」


「うん、開催地は東京からね。普段は海外だから学校の都合もあるだろうけど、日本開催の大会だから問題ないだろう?」


「ありがとうございます!」


 日本で開催ってことはジャパンオープンかな?

 てことはランキング上位の選手も出てくるだろうし、楽しみだ。


「たまきくんも来るの?」

「もちろん、行くよ。いやー、今から楽しみだな。あ、隼人さん! 対戦相手って誰なんですか?」


 俺の質問に隼人さんは笑って答えた。


「ビート・スミス。最強のオールラウンダーだよ」


 驚いて、声すら出なかった。


「あはっ、たまきくんの顔おっかしい!」


 口の空いた間抜け顔がツボに入ったらしく横で美月ちゃんが腹を抱えて笑っている。


 が、俺はそれどころじゃなかった。


 ビート・スミス、現在世界ランキング一位のテニスプレーヤー。隼人さんの言うように最強のオールラウンダーとして名高いアメリカ出身の選手。


 そんな選手と美月ちゃんの父親が対戦するなんて……想像するだけでワクワクする。


「環くんもビート選手を知ってるんだね。だったらわかると思うけど、この試合は確実に環くんの糧になるはずだ」


 そう言って隼人さんは俺の頭に手を乗せた。


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