第21話 放課後テニスタイム


 登校と同じようにバスと電車を乗り継いで、家からの最寄り駅へ到着。


 まだ、寄り道はしたことがない。美月ちゃんの引率もあるので、それはもう少し歳をとってからになるだろう。


 帰りの車内で宿題を済ませ、着いたのはいつものテニスコート。


 俺たち二人は車の積荷からテニスラケットと着替えを手に取り、ロッカールームへと向かう。


 パッと着替えてコートへ向かい準備運動をはじめる。


「たまきくーん、早くはじめようよぉー」


 少し遅れて着替えたみつきちゃんがコートにやってきた。


「まずは、準備運動と柔軟だ。ラケット使うのはそれが終わったら!」


「えー、けちぃ」


 吝嗇家と謗られようが、これは譲れない。油断は一瞬、怪我は一生。


「ダメだ。全く、いつも言ってるだろ」

「じゃあ、あれやろう。背中伸ばすからたまきくんが背負ってね!」

「へいへい。オッケー、お嬢サマ」


 なんだかんだ、美月ちゃんは俺の練習に何時も付き合っでくれてるわけで。なるべく要望は聞き入れるようにいている。


 ま、準備運動は譲れないけどな!




 そうして練習に入るがが、まずはアップから。短い距離のラリーで感覚を掴むことから始める。


「それでね、みきちゃんはたいきくんのことが気になるんだって!」


「へえ、そうなんだ」


「かおりちゃんもだから、大変なんだよ!」


「そっかあ、大変かあ」


「もうっ、たまきくん聞いてるの?」


 いやあ、本当に女の子の会話はませてるよなあ。

 同じ年齢なのに、何で男子の会話とこんなにも違うのか。今日の俺のグループの主な話題は卓上で繰り広げられる消しゴムバトル理論について、だった。


「それよりも、美月ちゃん。打点が身体に近くなってるよ。もう少し、スペース意識してみて」


「はぁい」


 短い距離の後は、ロングラリー、ネットプレー、サーブと基礎動作の確認をしていく。


 そして、練習の最後はゲーム形式。

 三ゲーム先取のタイブレークあり、と決まっている。


「たまきくん、フィッチ!」

「ラフで」

「スムースだ。じゃあ、わたしサーブね!」

「オッケー!」


 そうしてゲームスタート。


 基本的に試合形式の練習では、目標を一つ設定してプレーするようにしている。


 今日の目標はレシーブのプレーの幅を広げること、にしよう。


 意気揚々とサーブの位置についてトスをあげる美月ちゃん。小学一年生とは思えぬ、堂に入ったトロフィーポーズからラケットが振り下ろされる。


「たぁっ!」


 すぱん、と打球音が室内コートに響く。


 中々のスピードで飛んできたサーブ。軽いスライスがかかったボールは外側に跳ねる。


 コートの外側に走らされる。


 最初のプレーなので、丁寧に行くか。なるべく深くになるようにクロスへ返球する。


 スピンの掛かったボールは美月ちゃんの胸あたりまで高く跳ねる。


 そのボールを打ちづらそうに返してくるが、崩れたフォームからのスイングで力は足りず、コートの浅い位置へと落ちていく。


 それをぽん、と美月ちゃんとは逆サイドにドロップ。


「むーりーっ」


 取りに行こうと走ってくるが、届かず。

 ボールは美月ちゃんの前で無情にも二バウンドした。

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