第10話 練習会
軽くアップを済ませ、練習がはじまる。
まずはと隼人さんがお手本を見せてくれることになった。
菫さんが出したボールを隼人さんが打っていく。
簡単にスイングしているように見えるが、飛んでいくボールのスピードと打球音が全く違う。
全身のパワーの伝え方が上手いのか、ラケットからボールへ流れるよう速さが伝わっていくのが分かる。
「環くんも美月にお手本を見せてもらえるかな?」
流石にこれの後に俺が打つのは気が引けるんだがなあ……公開処刑では? 年齢差からして気にする奴なんて俺しかいないだろうが。
それでも、ちょっと躊躇いながらもアドバイスが貰えるなら有益なので、菫さんの前へ歩を進める。
「じゃあ、フォアハンド側にボールを出していくからね」
菫さんはぽんとゆるい弧を描くようにボールを出してくれる。
いつも通り、ボールをよく見てストレート方向へ打ち出す。グリップの握りは若干厚めのセミウエスタン。ゴリゴリにスピンをかけていくフルウエスタングリップも楽しそうだが、非力な幼児の身体では無理があった。
流石に隼人さんの打球と比べると月とすっぽんではあるが、俺の売ったボールはネットの数十cm上を通り、コート内にバウンドした。
まあまあなスピンもかかっていて、自分でもいい感触があった。
「どーかな? みつきちゃん!」
と、振り返ってみれば美月ちゃんは拍子抜けした表情だった。
内心、ショックを受けていると。
「うん、あんまりこわくないかも。これならみつきもできるよ!」
ああ、いつも隼人さんが打ってるボールスピードが、テニスの標準だと勘違いしてたのか?
もしかしてだけど、これまでテニスをやってこなかったのもそれを怖がってなのかもしれないな。
よし、そういうことなら俺が相手をしてやろうじゃないか。
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