第5話 ベイビーステップ


 始球式、のようなイベントにオーナーの孫として出る事になっている。


 が、実は今生ではテニスボールを打ったことがないのだ。というのも、体が小さすぎてまともな練習もままならない。


 そのため、これまでは身体能力の強化を主としてきた。まあ、出来ることは精々が公園とかで遊び回ることだったがな。


 今生初のテニス。こんな注目されている場面で失敗しないのかとも思われるだろうが、俺には秘策がある。


 スキル《モーションアシスト》である。


 このスキルは打ちたいボールの軌道をイメージすることで、どうやって身体を動かせばいいか教えてくれるのだ。数瞬先の理想的な動きをする自分が見えていてそれをなぞる感覚だ。


 使ったTPは1ポイント。この性能でこれだけ破格なのは試合では使用不可の制約があるからだ。


 今回のイベントでは対戦相手がいる訳でもないのでこの制約に引っかかるはずもなく。


 ふっ、とトスを上げる。スキルが教えてくれる理想の自分をなぞるように身体を動かし、ボールを叩いた。


 ラケットの中心、その僅か上部がボールを捉える感覚。そのまま、思い切りラケットを振り抜いた。


「ほっ!」


 気の抜ける自分の掛け声。それから少しして、ボールはサービスエリアの中でバウンドした。


「おお! 環は天才か!? うーむ、将来はプロの選手になるかも知れぬな」


 孫バカ爺さんの歓声がここまで聞こえてくる。

 他の観客も好意的な感想や拍手をしてくれたりと、どうやらコートの初披露は無事に成功したのだった。

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