第28話 皇都 竜安 皇帝との面会 ①
数日の工程を経て一行は皇都・竜安の皇宮に到着した。
「うわー。でっけーな。」
「わー。すごーい。」
桂申が驚嘆の声をあげ、狼牙も目を真ん丸にして建物を眺めている。
今まで訪れた都市で様々な建物を見たが、群を抜いて壮大で重厚な建造物であり、彼らのように声は出さなかったものの、明蘭も内心かなり驚いていた。
「姉上。お疲れとは思いますが、まずはお衣装を整えてから陛下との面会になります。陛下は寝室におられますが、現在はそこが執務室も兼ねておりますので後ほどそちらへお越しください。」
頼誠の言葉に明蘭は頷いた。
案内された部屋で、侍女たちに用意を整えてもらいながら明蘭は父について考えていた。
自分にとって父とはやはり育ての親の明翔のことしか考えられない。
どんな顔をして会えばいいんだろう・・・。
向こうが自分の存在をどう思っているのかもわからない。優秀な泰誠を押しのけて竜珠を継承した自分を疎ましく思っている可能性すらある。
不安を感じながら明蘭は皇帝の部屋へと向かった。
部屋の中にはすでに泰誠と頼誠がそろっていた。
「父上、明蘭姉上が参られましたよ。」
頼誠が寝台で寝ていた皇帝に声をかけた。
「おお、早かったな。」
皇帝はそう言うとゆっくり起き上がり、寝台の背もたれに身体をあずけ明蘭の方を見た。
「明蘭。遠路、よく来てくれた。私は明誠。この国の皇帝だ。」
皇帝から先に挨拶をされ、明蘭はあわてて膝を折り貴人への礼をとった。
「皇帝陛下。初めてお目にかかります。天竜村の明蘭でございます。お会いできたこと、嬉しく思います。」
明蘭の挨拶に皇帝は苦笑した。
「そのように畏まらなくて大丈夫だ。君のことは那雉を通して洛済で出会ってからずっと見ていた。私にとってよく知る旅の仲間のようなものだ。」
「恐縮です。」
そういえば那雉は皇帝と目を共有していると頼誠が言っていた。那雉だと思えば、少しは親しみがわくかもしれない、明蘭はそんなことを考えながら顔を上げた。
「ああ、やはり実際に見ると何となく玲々に似ているね。」
明誠は懐かしそうに顔をほころばせた。
「急に私が父親だと言われて、君も驚いているだろう。私も竜珠のことがなければ君の存在を知らないままになるところだった。死ぬ間際とはいえ、君に会える機会が持てたことを竜珠に感謝するよ。」
「私も今回のことで初めて自分に他に父親がいることを知りました。母は何も言わずに亡くなりましたし、育ての父もずっと秘密にするつもりだったと思います。」
「玲々は亡くなったんだね。」
明誠は寂しそうにほほ笑んだ。
「ええ。5年前の流行病で。父と私に看取られて穏やかな最期でした。育ての父も流行病の後遺症の肺病で私が天竜村を発つ少し前に亡くなりました。」
「父君はどんな方だったんだい?」
「明るくて優しくて強くて、村一番の狩りの名手でした。名前は明翔といって、私の明蘭という名前は父からもらいました。父の名前から一字もらうのは母の希望だったみたいです。亡くなる直前、老師様から皇帝陛下のお名前を聞いたのですが、自分と明蘭と皇帝陛下の三人でお揃いみたいだなって・・・。」
父のことを思い出し、少し目を潤ませた。
「いい父君だったんだな。今まで何の音さたもなく今さら父親ぶるつもりはないが、私は玲々や君を捨てたわけではないんだ。少し昔の話を聞いてくれるかい?」
明誠は、前皇帝の末っ子の第三皇子だった。
上に兄二人と姉二人がいるうえに、長子である第一皇子の兄の
知力、武芸、何一つ兄に勝るところが無く、兄は第一妃の子で自分は身分の低い第三妃の子だったのもあり、竜珠に自分が選ばれることはないだろうと勝手に考えていた。実際、皇宮の者たちも、ほとんどの者がそう思っていたはずだ。
当時の副宰相は自分の娘や息子を、皇子や皇女の配偶者として無理矢理押し付けてきたが、兄の栄誠には正妻の娘を、自分には妾の娘をあてがってきた。
妻の雪花はたいそう美しい女性だったが、お互い政略結婚と割り切っていて非常に淡泊な関係だった。
雪花はその容姿を妬まれたのか、実家で正妻やその娘にかなり虐げられていたようで、夫まで姉の残りかすをつかまされたことを不満に思っていたようだった。
泰誠が生まれて、役目は果たしたとばかりにますます疎遠な関係になっていた時、明誠に北都州への視察の話が舞い込んだ。
兄と比べられ、家庭では妻と上手くいかず皇宮にいることが苦痛だったため、一も二もなくその話に飛びついた。竜珠が継承される前の皇子・皇女が北寧ほどの遠方に行くことはまれなことだったが、期待されていない末の皇子だったのと、当時の北都州知事が非常に優秀と評判の人物で、勉強もかねて視察に訪れることになったのだ。
もちろん雪花は泰誠が小さいことを理由に同行を拒否したため、明誠は側近たちと北寧を訪れることとなった。
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