第27話 東江から皇都までの道中で
数日、東江での視察を重ね、ついに竜安へと旅立つ日がきた。
厳重な警護に乗り心地のよい馬車、途中に滞在する宿もどれも一流のものばかりで、今までで一番安全で快適な旅路となった。
桂申と狼牙も始めこそ居心地が悪そうだったが、明るく物怖じしない桂申はすぐに同行の官吏や軍人とも打ち解け、引っ込み思案の狼牙も大人ばかりの中でマスコット的な存在となり、主に軍人達にお菓子をもらったり遊びの相手をしてもらっていた。
ある日、途中の宿の客間で食後に五人で歓談をすることになった。
「兄上は寿峰老師にお会いしたことがあるのですか?」
泰誠の呼び方だが、初め”泰誠さま”や”泰誠皇子”と呼んでいたら、皇太子にそのように呼ばれるのはおかしいと毎回指摘され”兄上”に落ち着いたのだ。ちなみに頼誠のことは”頼誠”と呼んでいるが、まだなんとなく口がムズムズする。
「数年に一度、皇宮を訪れておられたので何回かお会いしたことはあります。龍聖といってもその時にはすでに白髪の老人であられたので、あなたを初めて拝見したときは驚きましたね。老師も昔はこのような髪の色だったんでしょうね。若い頃は大層な美男子で皇宮内で女性の人気を独り占めされていたと聞きましたよ。」
泰誠の言葉に明蘭は驚いた。
「そうだったんですか!ご自身ではそういうことは何もおっしゃらなかったので全く知らなかったです。老師様にお会いして早くご報告したいです。皇宮に着いたら天竜村に鳥伝を飛ばしていただけますか?」
明蘭の言葉に泰誠は表情をくもらせた。
「そのことですが、寿峰老師は亡くなられたそうです。」
「!」
明蘭は顔を強張らせた。
「あなたが天竜村を出立されて数日後に眠るように亡くなられたと。すでに墓も村内に作られたと聞きました。」
明蘭の目に涙がせりあがってきて、俯いて静かに涙を流した。
泰誠は天を見て少し悩んだ後、明蘭に近寄りその小さな体を抱きしめた。
泰誠の胸に顔を押し付け、明蘭はつぶやいた。
「本当はわかっていたんです。老師様はあまり長くないだろうということは。私が竜安に出立しやすいように無理をしていたんだと。」
ハラハラと涙を流す明蘭を泰誠は抱きしめ背中をなでた。
「皇宮が落ち着いたら一度墓参りに参りましょう。皇都の仙術師を使えば陸路より早くいけますし、もしかしたら竜王陛下の気がむいてくださったら空路で一瞬で北都州に行くことも可能ですから。」
「竜王へいか・・・。」
至高の存在すぎて現実味がないため忘れていたが、そういえばそんな方もおられたなと明蘭は思った。
「竜王陛下はめったに人前に現れませんが、たまに気まぐれを起こし手を貸して下さることもありますので、皇帝の代替わりの祝いとして、里帰りを望まれるのも良いかと。陛下は寿峰老師とも交流がおありだったと伺ってますし。」
泰誠の言葉に明蘭は無言で頷いた。
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