第25話 東都州 東江 館にて ①
そんな話をしながら目的の館に到着した。
「兄上は明日の朝のうちには竜安からこちらに入られる予定です。今日はもう遅いので、入浴と着替えをされたらお休みいただこうと思っています。侍女に指示しておきますので、何かあれば彼女たちに申し付けて下さい。」
三人は隣り合う部屋へそれぞれ案内された。
各自、身支度を整えた後に桂申の部屋で集合することにして、一旦各々の部屋へと入って行った。
明蘭の部屋には続き部屋にお風呂があり、すでに湯が用意されていた。
そこに置かれたものは、石鹸もタオルもすべてが超一級品でそろえられていた。
「
明蘭の髪は
明蘭はこの後、桂申達に全てを正直に話すつもりだった。
彼らにずっと偽りの姿を見せていたのは嫌だったし、もう逃げ隠れする必要もないだろうと思い、意を決して白銀草の石鹸を手に取った。
お風呂を出て、風の仙術で髪の毛を乾かした後、用意されていた就寝用の夜着の上にローブを羽織った。
明蘭が桂申の部屋を訪れた時には、すでに狼牙も桂申の部屋の中にいて、寝台の上で寝そべりくつろいでいた。
服が上質なもののせいか、みんないつもより小綺麗に見える。
二人は部屋に入ってきた明蘭を見て、あんぐりと口を開けた。
「メイ。おまえ、その髪!」
黒く染められていた髪は、輝くばかりの黄金色へと変わっており、もともとの美しい顔立ちに加え、繊細できれいな色の女性ものの服によって天女のような神々しさをはなっていた。
「これが、私の本来の姿なの。私は龍聖で、身体の成長が遅いから見た目は子供だけど本当の年齢は25歳になるの。」
「にじゅうごっ!まさかの年上。」
どうりでなんか落ち着いた子供だと思ったよ・・・と桂申がぼやいた。
狼牙も驚いたふうにこちらを見ている。
明蘭は二人から顔が見える位置で椅子に腰かけた。
明蘭の話を二人は神妙な表情で黙って聞いていた。話し終えたところで、二人に尋ねた。
「二人はこれからどうしたい?私はとりあえず頼誠皇子たちと一緒に一度竜安の皇宮に向い皇帝陛下に会うつもりなの。二人がついて来てくれるなら心強いけど、強制するつもりはないと思ってる。」
「俺らが竜安に行って、何かメイの役にたつのか?」
「何って、具体的には言えないけど・・・。」
明蘭が口ごもると、桂申が続けた。
「俺らみたいな底辺のゴロツキが一緒に居ると、余計にメイがあなどられるかもしれないだろ。俺は行かないよ。」
桂申の言葉に明蘭は顔を強張らせた。狼牙は心配そうに二人を見比べている。
「あなた達をそういう風に思ったことはないし、二人がいたからここまで来れたと思ってる。」
一旦そこで言葉を止め、桂申と狼牙の方を見た。
「見損なわないで。私が今まで一緒に旅してきた仲間をそういう風に思う人だと思ってたの?」
それは、かつて毒を盛られた後に桂申が明蘭に言ったのと同じ言葉だった。
桂申は虚を突かれたように明蘭を見てからくしゃりと顔をゆがませた。
「そうだよな。俺たちの絆はそんなやわじゃないよな。分かった。一緒に竜安に行ってやるよ。竜安で何かあって、また殺されそうになったりしたら、三人で逃げてどこか遠くで暮らしたらいい。」
「けいしん・・・。」
桂申の言葉に明蘭の心が軽くなる。
話し合いが終了したころ、狼牙が三人で一緒に寝たいと言い出した。
「俺はいいから・・・。狼牙はメイと寝てもらえ。」
実年齢を聞いて照れているのか、桂申がそう言って解散となった。
深夜。屋敷内のほとんどの者が寝静まった頃。
トントン
控えめなノックの音と共に執事が頼誠の部屋に入ってきた。
「頼誠さま。ただ今、泰誠さまの御一行が屋敷に到着されました。夜遅いですが、ご挨拶なされますか?」
「ああ、会おう。予定よりずいぶん早い到着だな。」
きっと兄もようやく見つかった宝珠のことが気になって仕方がなかったのだろう。
頼誠が一階の客間を訪れると、兄の泰誠がソファに腰かけ飲み物を飲んでいるところだった。
「兄上。お疲れ様です。随分と早い・・・」
「で、どうだった?」
頼誠の挨拶を途中でさえぎり、泰誠が尋ねてきた。
「どうとは?」
「じらすな。わかるだろう。」
少しイラっとしたように泰誠が詰め寄ってきた。いつも冷静沈着な兄が焦っているのが珍しく、少し意地悪を言った自覚があった頼誠はバツが悪そうに答えた。
「宝珠のことですか?」
泰誠が頷く。
「そうですね。性格は穏やかで善良な方だと思います。理知的で知性も非常に高いと感じました。」
それを聞いて泰誠はホッとした表情を浮かべた。
新しい皇帝候補は龍聖であり、確実に自分たちより長命である。これからの自分の人生すべてを新皇帝に仕えて過ごすことになる可能性が高いのだ。主君がどのような人物かは非常に重要な事項である。
「お前としては、合格ということか?」
泰誠の言葉に頼誠は頷いた。
「ええ、ただ・・・。」
「ただ?」
「麗蘭姉上と同じ年ということですが、外見は全くの子供です。髪は染めているのか黒色で、竜安の皇宮にある竜王陛下御一家の肖像画の真蘭皇女にたいへんよく似ておられます。」
泰誠は竜王の絵を思い出していた。
竜王はもとより香蘭皇帝も大層な美女で、天人のような麗しい一家である。その中で描かれた皇女の姿を思い出していた。
「ずいぶん小さいな。」
頼誠は頷いた。
「ええ、よく見積もっても12,3歳にしか見えません。兄上を差し置いて皇帝になることに皆の賛同が得られるか難しいところです。」
「まあ、いずれは成長されるのだろうが、龍聖ゆえにかなりゆっくりかもしれんな。とりあえずおかしな人物でなかったことは喜ばしいことだ。」
泰誠が安堵の息をもらした。
「それは本当に同意いたします。長旅で疲れたでしょう。今日は兄上もお休み下さい。明日は宝珠と朝食を一緒にとりましょう。」
「そうだな。頼誠もご苦労だった。」
泰誠は頷き、客間を後にした。
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