作戦
「志摩……お前……」
「友崎────今は、見ないでくれ。」
二人は視線を交わす。
そこに含まれた感情は
憐憫か。嘲笑か。あるいは悲嘆か諦観か。
空き教室の一瞬とも永遠ともとれるその時間に至るまで。
…話は昨夜、日曜の晩まで遡る。
志摩に一通の電話が。
〈ふじばな〉と表示された画面に若干鬱陶しさを感じながらも、志摩は電話を取りました。
「もしもし?」
『志摩ちゃん起きてるー?長電話しようぜぃ?』
現在の時刻、11時。
「お肌の天敵なので寝る。おやすみ」
『ちょい待ち。今の冗談。マイ○ル・ジョー○ン。てかどうせゲームする気っしょ。』
「はぁ…。何の用だよフジバナさん。」
『やだ。フジカって呼ばないと返事しないもん。フジバナ可愛くないもん。』
「…………。」
『…………。』
30秒経過。
「…何の用だよ、フジカさん?」
『フジカちゃんって呼んでくれないかな~?』
「………………フジカちゃん。」
『にふふ♪な~に?』
「寝ていい?」
『ごめん、本題に移るね……やれやれ最近の若いのは話を焦りすぎる……よよよ…。』
「同い年だろ…。」
深夜の作戦会議・始まりです。
「はぁ!?もう〈最高院〉の情報が集まったのか!?」
『そーだけど…むしろなんでそんなに苦戦してたの?学校中みーんなソイツの話してんじゃん。聞かないほうが無理あるよ~?』
「いやだからそれは…見た奴の色眼鏡とか入ってるのばっかだろ?『何が凄い』だとか『何がかっこよかった』だとかの、誉め言葉ばっかの。そういうのじゃなくて、本来の〈最高院〉の情報が知りたいんだよ。」
『聞けたけど?』
最高院くん。サイコーくん。最高院様。
色んな呼ばれ方してるよね。でも誰も下の名前で呼ばなかった。なんでだろうね。
それはともかく、まずはスペックから行くよ?まぁ言わなくてもさんざん聞いてそうだけど。
運動神経抜群・頭脳明晰で成績優秀。気立てもよくて顔もいい…みたい。見たことは無いけど。
前向き、明るい、リーダーシップがある。人の話もよく聞いてくれる。クラスの中心にいるタイプだけど、他の人をのけ者にしたりもしない。ついでに大財閥の一人息子…ここまで言っといてなんだけど、人生二週目かってぐらい出来た人間性だよね~。…まぁこれも人づてに聞いた話でしかないんだけど。
え。「光ってる」って言ってる人はいなかったか?何それ懐中電灯?
まーとにかくそんな訳だから、学校中で人気者。
そっちも言ってたように、女子も男子にも、サイコーイン君を悪く言う人はいなかったよ。
「あの学校内」ではね。
いや~大変だったよ、電車の乗り継ぎとか飛行機使ったりとか多国語頑張って使ったりとか。
…うそうそ、最初以外冗談。
ま、とりあえずさっき聞いた中の情報からどうにか〈サイコーイン〉君が前いた学校とか調べたりしたよ。というか行った。
本当に疲れた。マジに疲れた。疲れたの最上級、疲れtest。
こんど高めのスイーツ奢りね。マリ何とかでもいいよ。最近見ない気がするけど。
でも…名前出しただけで、いかついおじさん達がみんな土下座してくるとは思わなかったけどね~。
『手は出していないので報告するのは勘弁してくださいっ!!』て。
〈サイコーイン君の女〉だと思ったんだって。笑っちゃうよね。笑えなかったけど。
おっかしいよね~、大の大人が男子学生一人におびえるなんて。
「ちょっと前の不良ものの漫画の主人公みたい」って…。そのたとえはよく分かんないけど、でもそれなら喧嘩とかも強いのかもね。あーしもなんか覚えよっかな、シュッシュッ。
察しついてるかもだけど、そこでも色んな女の子と仲良くしてたみたいだよ、〈サイコーイン〉くん。そこの地元では、未だに帰ってくるサイコーイン君を待ち続ける女子たちと、その子たちに恋して破れ、悲し…がってはいなかったかな。懐かしんでた男子がいたよ~…。
え?〈サイコーイン〉を恨んでる男子はいなかったのか?
いたみたいだよ。
…うん。
いた。
……。
…あーしもなんか怖くなってきたなぁ。
まあでも、これで一つ作戦思いついたんだ~。
「嫌な予感がする」?…ここまであーし働かせといて、「やだ」の一言で済ませたらどうなるか……ぐひひ。
ん、分かればよろしい。じゃ~明日の放課後、1階の空き教室にて待て!なおこの連絡は10秒後に爆発する!ドーン。おやすみ~。
現在の時刻、午前1時ちょっと過ぎ。
「ぜってぇ寝不足なるわ…終わった…。」
さて、そんな作戦会議から十数時間後。
曇天覗く空き教室。
TS娘はギャル3人…とついでに緑髪の教員一人に囲まれていました。
その素肌に妖しい液体を塗り込まれ
そのまま手先まで舐めるように獣の毛が這いずり回り
目が回るほど身ぐるみを剥がされ着せられ被せられの繰り返し。
…なんてまどろっこしい表現は抜きにして。
「かんせーい!!志摩ちゃん〈ザ・子供の頃に出会って情緒狂わされたゆるふわ
お姉さんフォルム〉!!」
志摩はキラキラで、キュートで、くたくたの着せ替え人形にされておりました。
「不二華、ちゃん…。いい加減説明を…てか休憩────」
「駄目っス志摩P!!次は我の〈暗黒秘めるけど内心気弱純情ゴスロリ〉になってもらうっスよ!!」
「わたくしの〈家庭的で優しい割に一日一回殺人を犯さないと気が済まない糸目大家さん〉にもなってもらいます!!」
「愛しのゼブラちゃんには〈しまうまのきぐるみ〉が一番さ!!!」
そこはもはや混沌。
生ける着せ替え人形、志摩裕。
ばっちりなメイクとばっちりなお洋服。そして死んだ目。
口を開くことを許されないこの状況で、志摩はひたすら脳内で「これは多分作戦…作戦なんだよな?」と自問自答で精神を保っておりました。女の子の格好に志摩は恥じらいを隠せません。
がらりと。
それはこらえていた精神のドミノが崩れる音か。
あるいは空き教室の扉が、友人の男子生徒の扉で開けられた音か。
「志摩!ここにいるか!?なんも言わずいなくなってど…こ……行って…?」
端的に言いましょう。結論から言いましょう。
志摩は一応、精神はあれなので格好は男性の
スカートをはくのは制服の時だけです。
ゆえに。
そのあまりにも女の子らしい、女性らしい。
しっかりと着飾られ、かわいらしい姿をした志摩は。
〈子供の頃出会ったら情緒狂わされそうなお姉さん〉の姿は。
「志摩…………?」
「友崎……今は……見ないでくれ………!」
その小さく縮こまり恥じらう姿は。
長い付き合いの男友達の情緒をぶっとばすには、十分なのでした─────。
「へんたーーい!!」
次の瞬間、情緒についていくように友崎はぶっ飛ばされました。
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