友崎の憂鬱
「今日は…志摩の奴休んだか。」
男子生徒が独り言つ。
生意気なお嬢様との邂逅から週末をはさみ月曜日。
友崎の隣の席は、空の椅子と机の中の教科書だけの、誰もいないさびしい空間です。
≪志摩
(ノートとプリント )
7:50(持ってってやろうか?)〉
〈(わりぃできたらたのむあ)7:52
〈(わ。)7:52
〈【スーツの男が「休みだー!」と
叫んでいるスタンプ】
無理もありません。
指を折られる程度はバトル漫画やギャグ漫画では定番ですが、こちらは普通の学生生活。
しっかり病院で治療を受け、志摩は短いながらも療養をとることになりました。
「人の気も知らねぇで合法的な休みに大喜びしやがって。今日の作戦会議どうすっかなー。…そういや蒼真先輩の作戦会議もしなきゃなんだよな…。」
面白半分で茜崎の恋愛相談を始めたことすら後悔し始めました。
まさか一週間の間に二人もの知り合いに恋愛相談を持ち掛けられるなんて、なかなか
嫌なモテ期がきたなぁ、と友崎は考えていました。
「やぁ。ちょっといいかな」
どこかで聞いたような声。
過去に会ったことがあってもおかしくないような、どこにでもいるような見た目。
街中ですれ違っても気にも留めないような、どこにでもいそうな雰囲気。
一つ違うのは、周囲に女子を3人ほど侍らせているところ。
「久しぶりだね、友崎。」
そんな男子生徒が、親しげに声をかけてきたのでした。
「誰だお前?」
もちろん友崎は、そんな男子生徒に覚えがありませんでした。
「おやおや。くくっ、随分と冷たいんだね。大親友に。」
「距離の詰め方えぐいぞお前。…オレに何の用だよ。わりぃけど恋愛相談は受け付けておりませんので、もしそうならUターンして帰れよ?」
これ以上面倒ごとは背負い込みたくありません。
が、面倒ごとと言うのはあおり運転の如く追いかけてくるものです。
「茜崎さんの好感度が知りたい。」
唐突に、そう聞いてきました。
三人も女を侍らせているやばい男子生徒が。
「知らねぇよ。てかお前誰だよ。」
茜崎。
作戦会議のたびに、”最高院”とやらが足が速くてかっこよかっただの力持ちで助けられただの、勉強教えてもらってたら壁ドンできゅんとしちゃっただのと、現状”最高院”に好きとか愛とか通り越して盲目的な感情を向けている幼馴染。
会議と銘打ってはおりますが、最高院のかっこいいところを語らせてしまったらそれだけで昼休みが終わってしまう事があるほどです。
「…茜崎さんの好感度が知りたい。」
「知るかよ気色悪い、てめぇで聞けよ。」
…正直言って、この女たらしヤバ男よりは、茜崎本人が好きな”最高院”にくっついてもらった方がいいんじゃないか。友崎はそう思いました。
「なによあんた!生意気よ!」
「そうよそうよ!」
「お前はイカス様のことを何も分かってないのね!」
周りの女子共がキーキーとわめきます。
「まぁまぁみんな、穏便に。」
「さすがイカス様!」
「やっぱり私の夫にふさわしいわね!」
「あたしのよ!」
周りの女子はキャーキャーと褒め称えます。クソほどうるさいです。
てーかイカスさまってなんだよ、イカ料理かよ。と。
友崎は少しにやけそうになったのをこらえます。そういう空気じゃないですからね。
「ふむ…友崎君。」
再び侍らせ男は質問を始めます。
「なんだ。」
「どうして僕のクラスじゃないんだい?」
「は?」
知らねーよ。
だいたいクラス分けなんて先生どもが勝手に決めるもんだろがい。
…そんな口答えしてまたお供の女子共にわめかれたらたまったもんじゃありません。
穏便に、穏便に…。
考え込み。
考え込み。
考え込むふりをしていると、
予鈴のチャイムが鳴りました。
「…また、来るからね?」
侍らせ男はそういうと教室を出ていきました。
女子ズも散り散りに、走って自身の教室へ帰っていきます。
「あの男と休み時間過ごすためだけに遠い教室からくっついてきたのかよ…。」
友崎は女子の執念が少しばかり怖くなりました。
「ほー、そんな事が。」
「志摩も気をつけろよ?昨日の奴と言い、最近なんか変だからな。」
電気ポットで紅茶を二人分。
女子とも男子ともつかないやや物の少ない志摩の部屋で、まぁなんともゆるい空気です。
話の内容はあまり緩くないですが。
「あの女は元々ああいう奴だけど…まぁ了解。んで?そのあとは?」
「その後?」
「あれだよ。いつものコイバナ会議?俺がいない間に進展したか~?」
「無理に決まってんだろ。」
…。
「友達がケガさせられてるのに、そんなのんきな話できるかよ…。ましてやその原因が例の”最高院”関連だぞ?またあの妹とかいう金髪が出てきて、茜崎まで何かされたりしたらどうする…!」
「お、おお?でもあのクソ女が嫌ってるのは俺だから、そういう系の心配は大丈夫だと思───」
友崎はガッと志摩の両肩を掴みます。力の強さに少し怖くなる志摩ですが、そんなことはお構いなしです。
「ちょっ…痛」
「あの女は『次は指を折るだけじゃ済まない』と言っていた。これ以上”最高院”に関わったら、もしかしたら命だって危ないかもしれないんだぞ。」
「流石にそれは漫画の見過ぎ…まぁあいつならやるかもしれないけど。でも───!」
「オレはあの瞬間、お前を守れなかった。あの金髪女が怖くて動けなかったんだ…。…あの時も…そんな体になった時も、そばにいてやれなかった!」
「っ…。」
「”最高院”関連の恋愛相談は、もう中止しよう。」
「志摩、お願いだ。」
「これ以上、傷つかないでくれ…。」
「カレー作っといたから、後で食っとけ。その手じゃ料理は無理だろ?」
そう言って、友崎は帰っていった。
”最高院”に関わらない。
今後の身の安全(今のところあの金髪が危険なだけだが)のためにも、そのあり方は大事かもしれない。全校生徒が”最高院大好きクラブ”みたいになってるのはもはや気色悪い。
「茜崎と蒼真先輩には、明日オレから言っとくから。」
そう言ってくれていたので、本当に恋愛相談はしなくてもよくなる。
引き受けといて申し訳ないが、二人には自分の努力でどうにかしてもらおう。
「かっ…このカレー、辛口かよぉ…。」
…釈然としないけど、いつもの少し暇な日常が戻ってくると思えば、まあいいか。
…って。
…そう、思ってたんだけどなぁ~。
≪美鳥ネーチャン
(ゼブラちゃんお久ー! )
(突然だけど、そっちの学校で)
(働くことになったから! )
〈(よろしくねー! )19:36
19:36(ゼブラはやめてください)〉
勘弁してくれよ、ホント…。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます