生意気お嬢様後輩

「どういうことだよ、志摩。」

放課後。

前を行く相棒に声をかける男子生徒。

「まぁ聞けよ友崎。」

へらへらした態度で返す女子(?)生徒。


「”身代わり”が沢山いるってのはちょっと語弊があったけど…”身代わりに出来る奴”は沢山いるってことが言いたかったんだ。」

「何も変わらないだろ。それに志摩、お前が蒼真先輩の…結婚…を手伝うって言ったことに全然関係ないだろ。」

友崎のごもっともな指摘。

それに対して志摩は今時見ないような「チッチッチ」と指を振って馬鹿にする仕草で返しました。

「殴られたいのか?」

「マジすいません…説明するから…アイアンクローはやめて…。」



「うちのクラス…いや、うちの学校は今、転校生の話題で持ちきりだよな?」

「あ?まぁ…休み時間にその話題を聞かないほうが珍しいぐらいには…。」

曰く、笑顔と白い歯がまぶしい。惚れた。

曰く、不良をバッタバッタとなぎ倒し守ってくれた。結婚したい。

曰く、成績優秀運動神経抜群で気遣い完璧。婿超えて嫁にしたい。


…曰く、昔結婚の約束をした(複数)。もはや母になりたい。


教室、廊下、部室棟に職員室。下校のバスに至るまで。

彼の話題はホットもホット。話題にしているだけで地球温暖化が加速するんじゃないかと言うほど。

「ただの転校生に学校中が話題の中心にするなんて、正直いかれてる。それもみんながみんな恋愛方面に。」

「まぁそれは…でもそれだけかっこいいやつって事じゃないのかよ?蒼真先輩のあんな恋する乙女顔、俺だって初めて見たぜ?部の大会で優勝してた時だって、あんなに感情を表に出したのはねーんだ。」

「…。」



「だいしゅきビーーーム!!!!!」

志摩の唐突な奇行。

くるりと振り返り腕を十字にクロスさせ、友崎に向けてそう叫ぶ。


「…何…やってんだお前…。」

「………やっといてなんだけど、バカらしくて死にたくなってきた…!」


「まあ要するに今のが答えだよ。」

顔を冷ましながら志摩はそう話す。

「全く意味が分からんが…えっお前オレのこと好きなのか…?いやん…。」

「〆るぞ…。俺が言いたいのは、転校生のビームのことだよ。」


あの発光体が出したビーム。

浴びた生徒が液体をまき散らし奇声を上げながらとんでもない顔でとんでいくあのビーム。

あの転校初日以来、見ることはありませんでした。

そもそもあの日以来転校生とは会っていない…というより会わないようにしていたため、当然と言えば当然なのかもしれませんが。


「ズバリ、あのビームを浴びたらあの発光体が大好きになってしまう!!



…的な。」


「…言うだけ言ってみ?」


「つまりだ。あの日その”大好きビーム”を学校で出会う奴らに片っ端から浴びせた発光体S。クールも元気っ子も同性愛者も、多分だけどバカネ崎も蒼真先輩も、本人の感情は無視してみんなメロメロにした訳だ。ここまではいいな?」

「よくはないけど続けろ。」

「その結果、あの学校は”最高院大好き人間の集まり”になった!」

「うん。結論早くしてくれないか?」

「あーそうだな。まぁ要するに、バカネ崎の身代わりに蒼真先輩を使おうとしたように、蒼真先輩の身代わりになってくれる”最高院大好き人間”達をうまく告白なりくっつけるなりさせて、犠牲をなくそうってことだ!」

「……正気か?」

「………正直俺も分からねぇよ。なんだよ大好きビームって…。」

志摩は天を仰いだ。


「仮説にしても非現実的すぎるだろ。」


「まぁそうだよなぁ…。うーん…でもそれ言うなら、光る生き物がビーム出しながら普通に転校してきた時点で、もう現実的とか非現実的とか言ってられなくないか?」

「…そういえばそうじゃねーか!つーか光る人型とかもはやUMAとか不審者の類だろ!!なんで警察に連絡しなかったんだオレら!?」




「きゃはは!お兄様の足元にも及ばない愚民共が何か言ってるー☆」

人を小馬鹿にしたような小娘の声が、日の暮れる通学路に響きます。

「誰だ!」

「どこから…!?」


西日をバックに一人の影が高く。

それはそれは高く跳びあがり。

「ケぁっ…。」

志摩を踏み付けにしました。

「ざーこ☆」

※高所から人を踏み付けるのは互いに危険なので絶対に真似しないでください。



「…誰だ…?」

友崎は疑問を口に出した。


「くすくす…。」

「誰なんだ…!?」

友崎は警戒した。


「くすくすくす~☆」

「一体何の用だってんだ!?」

友崎は怒鳴り散らした。


「まず俺の上から退きやがれっ!!」

「やだ汚らわしい獣~☆」

ぴょんとその人影は志摩の上から再び高く跳び、綺麗に距離を空けての着地。

審査員の全員が10点の札を上げているような幻覚が見えるほどです。

見た目はクソ生意気な小娘。しかしその端々の仕草、アクセサリー、手入れされた金髪から、お嬢様であることが誰でもわかるような気品も併せ持っておりました。


「ぐっ…こいつ…。」

「志摩、大丈夫か?」

「あれれぇ☆誰かと思ったら暴れシマウマさんじゃないですか~☆いつもみたいにじたばた足掻いてダサい縞模様見せてくださいよ~☆」

生意気お嬢は、やや知った風な口で志摩を小馬鹿にしてきます。


しかし友崎にはまるで誰だかわかりませんでした。

「志摩、こいつ知り合いか?」

「あー?そういやお前、小学校は途中で転校したから知らんかったか。正直

思い出すのも反吐が出るが…一言で言うと、俺の敵だ。」

志摩の睨みに対し、へらへらとした態度を崩さないお嬢様。


「敵だってー☆あんたなんかと同列にされるのなんて絶対ヤなんだけどー☆でもまぁ?お兄様の悪評広めるなんて許せないし~?あの時みたいに潰しちゃおっかなー☆」


「あのモテモテな発光体様がお前の兄貴?ハッ、傑作だな。妹がクラスの糞○ッチアイドルだったのは兄譲りだったって訳だ。」

…。


「殺す。」

「やれよ。」



一瞬の衝突。


結果は予想できたはずなのに、友崎は止めることが出来ませんでした。


「っぁあああああああああ・・・・・・・!」


「くすくす~☆さっきといい、あの時よりだいぶ鈍ったんじゃな~い?きゃよわい女の子の体にされちゃって、心までよわよわになっちゃったのかな~?」

「ぐっ…元はと言えばお前が───」

「はいは~い☆負け犬のいいわけなんて聞きませ~ん☆それじゃあ僕はもう行くけど~?二度とお兄様を馬鹿にするなよ雑魚が。」



次は指折るだけじゃ済まないからね~☆

そう言ってひょいひょいと街を跳ね、お嬢様は去っていきました。

後に残されたのは手を押さえる涙目の女子…生徒と、呆然と立ち尽くす男子生徒。

「志摩…悪い、何もできなかった。」

「いい…大丈夫だから…。」

「チッ…くそ、結局あいつ何だったんだよ。たしかあの発光体の…最高院の妹だとか言ったか?ムカつくぜ…!」

怒りに任せてその辺の壁を殴りつける友崎ですが、その言葉に志摩はとあることを思い出すのでした。


「違う。」


「あのクソ女の苗字は黄瀬だ。”最高院”じゃない。」

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