クール系先輩属性
「おい志摩。」
男子生徒は真剣な声で話しかけました。
「…どうした友崎。」
TS女子生徒はそう返します。
二人が名前で呼び合うとき。
それはとても大事な話をする時の合図であるのです。
「オレら…やっちまったんじゃねぇか?」
「何をだよ。」
赤い幼馴染の頼みでスタートした告白お手伝い計画から3日後。
それほどの成果も残せていない中、とある心配を友崎はこぼします。
「あんなビーム出す発光体と大事な幼馴染をくっつけるとか、俺らやばいんじゃねぇのか…?」
「それはそうだ…!」
バカ二人は今更な事実に気が付きました。
万が一あの発光体と茜崎がくっつけられたとして、ことあるごとに彼氏のビームを浴びて液体をまき散らしながらぶっ飛ぶ幼馴染。これではラブコメどころかギャグマンガ。いやそれ以下です。恥ずかしくて見てられません。
「…やめるか?」
「志摩はできるのか…?あの元気っ子に『やっぱお前はあいつと恋愛すんな』と宣言するのを。」
できるわきゃありません。
二人の脳裏には断られた悲しみのあまり、濡れそぼった捨て犬の如く泣き続ける幼馴染。
できるわきゃありませんでした。
「どうすりゃいいってんだっ…!」
「なにやら面白い話をしていますね。」
眼鏡をかけた青髪ストレートの女性が、二人の目の前に現れました。
クールビューティー頭脳明晰。そんな感じの女子生徒です。
「「生徒会長!!」」
この学校の生徒会長でした。
「生徒会長ではありません。」
生徒会長はあだ名でした。
「まぁ冗談は置いておいて。蒼真先輩、何の用でしょうか?」
先輩っぽい雰囲気の青髪の女性に、友崎は問う。
「だから先輩でもないと…。まぁとにかく、今日は”私より成績上位の友崎さん”と”変人の志摩さん”にお願いがあってきたのです。」
友崎は思った。
なんかいやみったらしいから何言われても断ろうかなと。
志摩は思った。
こいつぶん殴ろうかなと。
「けっけっけけけけけっこっこっここここここここ」
おいどうしたと。
鶏の真似かと。
そういえばどっかで同じの見た気がすると。
そう二人が言おうとしたところで。
「あの人と!!結婚させてほしいのです!!!!!!!!」
教室のど真ん中で。
もうすぐ授業開始で人が集まり始めた時に。
大声で恋慕を叫び散らすやばい女が、そこにいたのだった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
「あの…何か言ってくれませんか?」
「いっや~戦友昨日の深夜アニメ見たか!?あの女お前の予想以上にヤバいやつだったぞ~!」
「マジか!オレ録画勢だからネタバレはそこでストップしてくれよー。」
「スルーしないでいただきたいのですが!!」
誰だって教室のど真ん中で恥も外聞もなく恋慕を叫ぶやつと知り合いだとは思われたくありません。
志摩も友崎も。
茜崎?あれは幼馴染補正と言う奴です。
次の休み時間。
改めて二人は相談を真面目に聞くことにしました。
「志摩さん。スカートで足を組むなんてはしたないですよ。」
「ずっと両足地面につけてるとイライラすんだよな~、って俺のことはいいんだよ。えーっとさっき言ってた…”あの人”ってのは誰だ?俺らの知り合いか?」
さっそく本題に入ります。
休み時間は有限ですから、女子特有の回り道な会話は今回ばかりは休んでいただかなければなりません。
「っ…そうですわね…。うん…そう…。」
「”最高院”さまを知っていますか?」
最高院。
さいこういん。
サイコウイン。
「新しい病院ですか?」
「ぎゃはは!それいいな!『なんでも直す!最高院!』なんつって~────」
蒼真先輩は机を勢いよく叩き立ち上がる。
「最高院さまを侮辱しないでください!そんな矮小なものではありません!!!!!!」
普段から冷静な姿を知る友崎はその激昂した姿に目を見開き。
あんま関わったことのない志摩はビビり散らかしてひっくり返っていた。
「隣のクラスの…あの人ですよ……。」
冷静になりすぎてもろに照れた声でそう説明する。
これだけでも情報は全然少ないが…。
隣のクラスのあの人。
最近ホットな有名人として思い当たるのは、あのビームを出す発光体ぐらいです。
というか、ビームに当てられ倒れていた人たちの中に蒼真先輩がいたことを、友崎は確かに覚えていました。
「あのビーム人間、最高院って苗字だったのか…。」
「厨二病時代の志摩でも考えないよな。」
「ほっとけ〈竜陣ダークシャドウ〉」
「なんだと〈月下鍵聖〉」
「二人の黒歴史はどうでもいいです!とにかくあの人と結婚させてください!!」
今この場においては、みんな恥も外聞もなかった。
「…おい友崎、これはチャンスだ。」
「ほう?」
「結婚できるかは知らんが、この…蒼真さん?があの発光体とくっつけば、バカネ崎があれに告白することはできなくなる…気がする…。」
「…それはつまり、我らが幼馴染が、得体のしれない発光体のビームで醜態をさらすことが無くなるということ…!」
「ザッツライッ…!そうすりゃ毎回、昼休みの進展のない作戦会議で脳を疲れさせる必要が無いっ…!」
「…あーでも待った志摩。」
「どしたん話きこか。」
「オレ一応蒼真先輩と…まぁ友達とは言わないけど、いろいろ世話になってんだよ。だから”身代わり”って形にするのはちょっと気が引けるっていうか…。」
「なにこそこそ話してるんですか!!私の話聞いてるんですか!?」
「どひゃあ。」
蒼真先輩はさっきまで、志摩から「その最高院さんのどこが好きになったのですか」の質問に対して3秒沈黙したのち、聞き取れないタイプの早口で解説を始めていた。
その瞬間志摩は聞き取ることを放棄し、こそこそ作戦会議を始めたのだった。
「なんでもないですよ。そんなにたくさん言葉が出てくるなんて、よっぽど最高院さんのことが好きなんですねって話をしてたんです。」
「あっ…そうでしょうか…。」
聞き取れないことをうまくごまかしつつ相手を照れさせることで会話を成立させたことにする。攻守において完璧だっ!!
「それで、受けてくれるでしょうか?私のお願い…。」
そんなに完璧でもなかった。だってどうするかまだ決めてないもん。
幼馴染の無様を許すか。
世話になった人に身代わりを託すか。
二つに一つ──────!
「了解、任しとけ!」
「っ────ありがとうございますっ!!!」
一歩、遅かった。
今にも足元から花畑が沸いてきそうな喜びのオーラを全身で出しながら、蒼真先輩は帰っていった。
「志摩!何やってんだ!?俺言ったよなァ!?何勝手に了承しちゃってんだよぉ!?」
志摩の胸ぐらを強くつかみ上げる。
「ぉおおお落ち着けって!?ほらアレだよアレ!!いいから放せって!!」
「話すまで放さない!!」
「服が伸びるからそれは勘弁してくれ!!」
「はぁ~ビビった。」
「早く話せよ。志摩」
「はいよ。…あくまで仮説だぞ?っとその前に聞きたいんだが、お前は蒼真先輩と
知り合いだったよな。」
「そうだ。」
「蒼真先輩は惚れっぽい人だったりするか?」
思慮。
「いや、蒼真先輩はむしろどんな男にも靡かないせいで、一部じゃ同性愛者疑惑があったぐらいだな。それはそれでファンができたりしてたけどな…。いきなり結婚なんて言い始めるなんて、それこそ今日がエイプリルフールだってことにした方がまだ理解できるぐらいだ。」
「おっけ。次は”ああなる前に最後に蒼真先輩と会話したのはいつか…”いやこれは分刻みでもないとあてにならんな。じゃあ”4日前の転校生のビームに当てられた奴の中に、茜崎はいたか。”思い出せるか?」
思慮。
思慮。
「いた。教室の中に確かにいた。」
「くっくっく…おっけー!多分もしかしたら奇跡があればうまくいく!!」
「どういうことだ?志摩。」
未だ知り合いが得体のしれない奴と付き合う可能性があることに、友崎は気が気でありません。早く話そうね。
「この学校には、他にも”身代わり”はたくさんいるってことだぜ!!」
聞き方によってはマッドサイエンティストに聞こえるセリフを、志摩は机の上でキメポーズで叫ぶのだった。
授業中に。
「廊下に立っとれ。」
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