燃えよ幼馴染

「おはよう相棒」

 まだ少し冷える通学路で、男子生徒が話しかける。

「おぉ戦友、はよっす。」

 地味目の女子(?)生徒は答えた。


「いやー、昨日高山センセ滅茶苦茶切れ散らかしてたな。怒鳴り声で窓ガラス割れるかと思たわ」


「まぁ過半数も授業さぼりがいたらな。にしたって廊下でバケツ持ちとかいつの時代だよっての…よくまぁ体罰判定になんねぇな?」


「あれな~!堂々と戻ってきたやつらがみんな廊下に並べられてたやつ。途中からバケツ足りなくなってて他の生徒持たせだした時はちょっとウケたけど。」


「くくっ、そんなんやってたんだ?」


 そんなやり取りのさなか。突然の地鳴り。

 二人の背後からは、砂埃を巻き上げた獣が勢いよくつっこんでくるのでした。

 とても今から猛ダッシュして逃げ切れる速度ではありません。



 ところで猛獣に出会った時、どうするのが正解なのでしょうか。


 死んだふりをする。

 ほとんどの動物には効きません。ましてや今勢いよく迫っている中で道のど真ん中で倒れ伏してしまえば、轢き飛ばされるのは確定です。


 ゆっくりと目を見て逃げる。

 今勢いよく迫ってきているのにそんなことをしていては轢き飛ばされてしまいます。


 物を投げて気を引く。

 一本道の通学路でそんなことしてもほとんど意味がありません。



 なんてこったい万事休す。

 志摩と友崎の来世にご期待ください。

 天を仰ぐ二人のに、その猛獣は勢いよくとびかかるのでした。


 END




「ぉおおおおおおおおおっはよーーーーーーーー!!!バカブラザー!!バカシスターー!!」

 赤き猛獣は二人に飛びつき勢いよく肩を組むと、耳元でバカでかい声であいさつをかますのでした。

「「誰が馬鹿だ!」」



 赤いポニテの元気印。猛獣は二人の幼馴染でした。

「朝っぱらからやかましいな茜崎。なんかいいことあったか?」

 地味少女は未だ首元にぶら下がる茜崎と呼ばれた少女に聞きました。

 デフォルトでやかましいことに定評のある茜崎さん。

 しかし今日にいたっては口を開かずとも体中から鈴のように…というか防犯ブザーの如くやかましいオーラが出ていました。

「えっへっへ~!?分かっちゃう~?分かっちゃう~?」

「いいから早く話せ。そして放せ。」

 茜崎はぴょんと飛び降りると、語り始めました。

「えっとね~!えへへへ!昨日のバカかっこいい転校生知ってる!?」


 知ってる。

 転校生を知ってはいる。

 と言うか見た。を見たの範囲でくくっていいのかは分からないが。

 でも一応時間が無駄なので適当に答えることにした。

「知ってるけど知らん。」

「あぁそれだ。そんな感じ。」


「えへっへ~…その転校生なんだけどね~?」

 これどう答えても話進むやつでした。


「けっけっけけけけけっこっこっここここここここ」

 おいどうしたと。

 鶏の真似かと。

 二人がそうツッコもうとしたところで。


「小さい頃っ!!結婚の約束した人だったんだ!!!!!!!!」

 往来で。

 爆音で。

 幼馴染はそう叫んだ。


 はぁ。

 結婚の約束。

 あの発光体と。

「よかったね?」

「あれー!?反応が薄いっ!!」

「むしろオレらにどう反応して欲しかったんだよ。」

「だって昔の幼馴染だよ!!二人も会ったことあるんだよぉ!?」

「「それはマジで知らん。」」

 転校生のことは知らない体で通すつもりが、反射で答えてしまいました。

 だってあんなビーム出す発光体が昔の幼馴染だったとか、もはや思い出を通り越してトラウマもの。絶対に認めたくありませんでした。


「うえぇ…二人が冷たい…愛がほしい…バカ熱い愛…バーニング…」

「まぁそれが本当なら、話しかけるなり告白するなりすりゃいいじゃんね。」

 友崎の問いに、赤ポニテは全身を真っ赤にしました。

「こっこここここここ告白ぅ!?だってそんな…恥ずかし…」

 往来で「結婚の約束」とか叫んだ人に恥じらいがあるとは思えねぇ。

 二人はそう思いました。

「お前そんな恥じらいあったんだ。」

 志摩は口に出しました。

「こら。」


「でも告白…告白かぁ~!」

 茜崎は既に年甲斐もなくスキップしながら進みます。

「やる気入るまでが早いな。なんなら今日行っちゃう?」

 志摩の 気軽な誘い!

「虚居巨きょおおお!?あ~うんでもそれで上手くいったら…子供三人…犬も飼って…えへへ…。」

 茜崎は 先走っている!

 友崎はドン引いていた!

「あっそうだよ!それでここまで追いかけてきたんだよ!」

「は?」

「お願いっ!!」

 そういって茜崎はパンパンと。

 二回お辞儀をし二回柏手を打って、また二人にお辞儀し。


「アタシの告白を成功させてくれない!?」


 もしかしてここまでの会話の流れを想定していたのか。

 あるいは昨日の時点ですでに告白するまで考えていたのか。だとしたらかなりヤバいやつだが。

 まぁ。

 しかし。

「「よかろう。」」

 神気取りで二つ返事でOK。

 知り合いの恋愛模様ほど面白いもんはありません。

 若干やっちまったと思いつつも。



「やーーー!!ありがとーーーー!バーーーニーーング!!」

 ぴょいぴょいと飛び跳ねる幼馴染を見ていると、まぁ悪くない気になるのでした。


「じゃ、アタシこっちだから!!昼休憩で作戦会議だよ~!!」

 ぶんぶんと手を振り隣の教室へ入っていく幼馴染。

 変な転校生事件もありましたが、この先の学生生活は少し楽しいものになるかもしれない。ふとそう思うのでした。

「なあ相棒。」

「なんだ戦友。」





「今日は隣の教室、光ってなかったな。」

「休んでただけじゃね?」

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