第5話 やりたい事とやられる側

「ぎゃははは!」

「うははは!」

エッジとガンドは街を駆け回っていた。

「フン!」

ガンドの伸ばした腕の肉がエッジを包み込み、彼を時計塔の壁へと勢いよく叩きつける。

「オラァァァ!」

エッジは肉を突き破り、ガンドの腕を伝って彼に蹴りを叩き込んだ。

「…ってえなこの野郎!」

ガンドは肉を放出させる。

しかし、エッジは空中でそれらを全て回避し、回転しながらガンドに切りかかった。

「……!」

彼は咄嗟に肉壁でガードし、その肉をエッジから切り離した。

彼は地面に着地すると、先ほどとは打って変わってその場に静止する。

「どうした?!もう終わりかぁ?!」

襲いかかったガンドの右腕を、エッジはノコギリで切断した。

「っ……!ぐああああ!」

彼の右腕から血煙が上がる。

「ふぅ…よーやく動きに慣れた。」

エッジは攻撃の手を緩めることなく、ガンドに続けて斬りかかる。

「っ……!」

ガンドはのけぞる形で回避する。

が、完全にかわした筈の彼の首元には傷がついていた。

「な…?!」

大量の血が溢れ出す。

「よーよー。いてーかい?」

待て。奴の握っている武器。先程までノコギリだったはず。何故ロングソードに変わっている?

「なるほどな…そう言う魔能力かい。」

「はははは!気付いたところでおせーって奴よ!

暴走切断マッドマーダー.ディスマントル!」

空中に無数の武器が出現する。

エッジの魔能力、俺は単純明快。武器の生成。

同時に作り出すことも出来れば、入れ替えることもできる。

「そうかい…だがなあ…こっちにもまだあるってのを考えねえとなあ?!」

ガンドは体の中を傷口に移動させる。

切断された腕は鋭利な刃へと姿を変える。

「さあ…こっからが本番ってやつよ!」

彼の身体中の肉が鋭利さを帯びていく。

「そういやそうだなあ…刃物そのものを解体したこたあ無かったぜ!」

全身の刃物、そして数百種の刃物。

それらは一斉にぶつかりあった。

激しい金属音の中、最初に仕掛けたのはガンドだった。全身の刃をエッジに向けて射出し、それと逆行するように、自身は彼から距離を取った。

だが、そこには彼はいなかった。

「……?!どこにいる?」

「ここだよ。」

ガンドの背後に忍び寄っていたエッジは、彼の腹部にナイフを突き刺した。

「がっ…!そうか…お前…見たことあるぞ。指名手配で……」

「よーく分かってんじゃねえのよ。そうそう、『解体屋』なんて呼ばれた時期もあったっけなあ…」

「犯罪者を日々解体してその死体を乾燥させ、街の中央に晒しあげる快楽殺人者…暗殺者仕込みの気配遮断能力と、同時に並の魔導士では太刀打ちできなほどの戦闘能力を持つとして…」

「あーいーのいーの、そう言う話は。さよならだ。」

突如、上空から大量の武器がガンドに降り注いだ。それらは全て彼の背中に命中する。

「がっ…はあ…!」

悪魔の能力でもカバーしきれぬほどの傷を負い、彼は血を吐き出した。

「アレが全部だと思ったか?俺との正面衝突にこだわり始めたからしめたと思ったんだよ。もっと高いところに武器を作り出しといた。

後は油断を誘った隙にドカンさ。

派手な殺し合いでも期待してたかー?

残念だなあ、俺はバラすのが好きなだけだ。殺し合いなんざ微塵も興味ねーの。」

「ちっ…!まじかよ。まーやるだけやれよ。」

ガンドは諦めがついた様子で、ゴロリとその場に寝転がる。

「おっマジで?じゃーお言葉に甘えて…

いただきまーす♡」

そこからは、最早彼自身でも歯止めが効かなかった。

手、足、局部……

ありとあらゆる場所をゆっくり、確実に、そしてより凄惨に切り取っていく。

ガンドは悶え苦しんだ。

『あああああ!いやだ!いやだいやだいやだいやだ!誰か助けて…誰か!』

叫ぼうにも、声帯が壊れて叫ぶことができない。

どうしてこんなところな俺はいるんだ。どうしてこんな事をしてるんだ。こんな死に方嫌だ。イヤダイヤダイヤダ……

そうして彼は、いつ死んだかも分からぬうちに、エッジの手によって殺された。



「ちょこまかと…逃げるな!」

女はハンクに向けて斬撃を繰り出す。

悪魔の力によって拡張された斬撃は、周囲の民家を一刀両断した。

「あー待ちなさいお嬢さん!少し被害の及ばぬ所で…」

「どう見たってアタシのが年上でしょーが!」

女から、3連続で斬撃が繰り出される。

だが、それらはあっさりハンクの剣によって叩き落とされた。

「ぬーーー…なんなんだよホントに!マトモに戦えば強いだろーが!」

「わたしはわたしなりの戦い方があるのだよ!それについていけていない時点で君の負けだ。」

「ぐぅ…正論。だったらどうだってんだよ!」

魔力を刀に集中させる。

とびっきりの一撃を当てる。回避もガードも不可能なレベルの。

「はあ…!」

全長100mにも及ぶ、最早斬撃とすら呼ばぬ一撃。回避できたとしても、その被害を考えれば出来ぬだろう。

さあ、どうする。どう出る神父。

ハンクが取った行動は、即ち棒立ちであった。

防御も回避もしない、文字通りのノーガード。

何をしているんだ、奴は。まさか諦めたのか?

武術、修練…あらゆるものに無が存在する。無の状態こそが、ある意味最強の防御ともいえる。それが、ハンクの導き出した結論だった。

「ふん!」

突如、彼は動き出した。

斬撃が彼の目と鼻の先へと迫ったその瞬間、剣でそれを両断したのである。両断された斬撃は空中で霧散し、丸も無惨に砕け散った。

「な…に…?!」

その時、彼女は気がついた。自信の体に傷がついていたことに。

「教えておいてやろう。わたしの魔能力は、『魔力同士を分断する』能力だ。聖なる力の前には全て無力ということだ。」

そんな、馬鹿な。魔力を用いた戦闘全てを否定したようなものじゃないか。

「…面白え!やってやるよ!」

女は傷口の血を拭うと、再びハンクへと斬りかかる。

が、それは当然のように回避され、彼女の剣は彼の手刀によってあっさりと砕かれた。

「お前……何者だ!」

「ただの聖職者だ。」

ハンクの続けての手刀により、彼女は意識を失った。


「んだよーハンクてめぇ。情けなんかかけやがってよお。」

解体した体を引き摺りながら、エッジが彼に近づく。

「うおっ!待て待て近寄るな気持ち悪い!」

「カリギュラ効果って知ってるか?」

「うわああああ!」

エッジはハンクに勢いよく飛びついた。


「………」

「………」

男とエヴァは暫く睨み合っていた。

「なあなあそんなに怒ることないっしょ〜。仲間殺されかけたくらいでさ…」

男の言葉を遮るように、エヴァは銃の引き金を引いた。

「うおっ!」

男は咄嗟に射線から逃れる。

銃の射線上全てが、抉り取られるように塵へと変わった。

「うおー…あぶねーあぶねー…。そう言う物騒なもんは…」

エヴァは男の顔面に拳を叩き込んだ。

男は勢いよく吹き飛ばされ、民家の壁へと激突する。

「痛ってえ………マジでやばいっしょ君ぃ…」

「お前…悪い奴だな?」

突如彼女が投げかけた質問に、男は困惑した。

「何言ってんだ?悪い奴に決まってるっしょ?アンタにとっては。」

「あっそう。へへへへへへ…ははははははははは!」

またもや男は困惑する。何がおかしいんだ。ついに気でも狂ったのか?

「悪い奴なら仕方ねえなあ〜?だったら当然ぶっ殺さねえとなあ〜?!」

エヴァは2丁の銃を構えると、一切の迷いなく引き金を引いた。

「…!」

男が咄嗟に避けるのも間に合わない。

銃撃は彼の左半身を削り取った。

「まじか…!」

男は悪魔の能力を発動させ、半身を修復すると、エヴァに向かって突進した。

男は巨大な鎌を生成すると、エヴァに向けて振りかざす。

エヴァはそれをナイフで受け止めると、男の顎を蹴り上げた。

「ぐっ…!」

男の腹部に銃が突きつけられる。

「おーとおっと…動くなよ?死にたくねえならな。」

男は魔能力を発動させ、彼女の視界から消える。

「なるほど…テメェ魔能力もあるのか。…瞬間移動って所か?」

上空から、黒い影が大量に降り注ぐ。

100や200どころの話ではない、常人には視認すら混乱を極める速度で、それらは降り注いだのだ。

だが、彼女は当然その限りではない。それら全てを回避すると、上空にいる男に向けて銃撃を放った。

「ぐああああ!」

男の両足が、巨大な鎌とともに消し飛ばされる。

「空中戦でもおっ始めるか?それもいいなあ!」

エヴァは大きく飛び上がると、未だ空中にいる男に連続で打撃を浴びせた。

「あああああ!」

男はエヴァの攻撃を振り解こうと、再び瞬間移動を行う。

だが、それすら通じることはない。

彼女は男に即座に追いつき、その首を掴むと、そのまま勢いよく地面に叩きつけた。

「ガハっ…!はあ…はあ…ちょっと君…強すぎるっしょお…」

「お褒めいただき光栄だよ。」

「でもね…まだ…奥の手ってのを取っておくもんなんだよ!」

男は体を変化させる。

その姿は、悪魔そのものだった。

「さあて…さてさて…このままやっちまうっしょ?」

男は口を大きく開け、魔力を装填する。

「ふぅ……たばこでもありゃ吸ってるんだが…ねえか。」

エヴァは至って冷静に貧乏ゆすりを始める。

何をしているんだ。まさか、まさかこれでも勝てないと言うのか?

「アタシはあんまりこの能力を使いこなせてなかったんだが…アンタとの戦闘で色々と学んだよ。魔力ってのは使うんだろ?」

エヴァは銃を手に取ると、魔力をそれに込める。

銃だったものはどんどんと巨大化していき、スティンガーへと変貌した。

「久しく使ってないから…どうなるかは分からんがな。まあものは試しだ。」

両者の砲撃は同時に発射された。

だが、差は歴然。

拮抗する間も無く、エヴァの砲撃が男を貫いた。

「が……あ…!」

体の大半を失い、男はその場に倒れた。

「なるほどね…それが悪魔契約の代償か。悪魔に体を売り渡すが故に、体の構造も魔力に依存していると。」

エヴァは男の体を片手で持ち上げる。

「どーやらアンタはアタシの求めてた奴とは違うらしい。何せとんでもない小物だからな。」

「へへ…そーかよ。……あばよ、クソビッチ。」

男が言い放ったセリフで何かを感じ取ったエヴァは、彼の体を上に投げる。

「あー…エヴァじゃねーの。何して…」

「おい!その女を投げろ!」

「は?!よく分からんがわかった!」

エッジはハンクから女を取り上げると、同様に上に向かって投げた。

その直後、巨大な爆発と共に、彼らの死体は跡形もなくなった。

「なーんもわかんなかったなあ…」

「……帰るか。色々あるだろうが。」

どこからか持ち出した葉巻を吸いながら、エヴァは呟いた。



「…はっ!」

マナは馬車の中で飛び起きた。

「あ、起きたか。…随分なアホ面だったぜ、アンタの寝顔。」

エッジはニヤニヤと言う。

「あとよだれついてる。」

ハンクはそっとハンカチを差し出す。そそくさとマナはそれで口を拭った。

そうだ、言い忘れていた事がある、とマナは気まずそうに口を開いた。

「あ…ごめん、なんの役にも立たなくて。」

「いーのいーの。アタシとしてもなんの目的も果たせなかったし。」

エヴァはそう返す。目的。それは一体なんなのだろう。

「まー最初じゃそんなもんよ。」

エッジはマナの肩をポンポンと叩きながらいう。

「おい偽聖女、今回で活躍したからと言って調子に乗るなよ!私はお前を聖女とは認めんからな!」

ハンクはエヴァにそう言い放った。

「あーはいはいわーったわーった。」

エヴァは適当に返す。

「…ねえ、エヴァの目的ってなんなわけ?」

エヴァは彼女に問いかける。気になってしまっては、聞かずにはいられない。

「あー…そうか。そうだな。

最高に悪い奴をこの手でぶっ殺すことかな。」

エヴァはそれだけ言って、それ以上は語らなかった。マナ自身、それ以上聞く気はさらさら無かった。

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