38. デーモンとの決戦

 ボクたちは森の調査を終えると、ゴルドカイゼルの案内通り山の麓に着いた。

 ただ、あまり歓迎されてはいないようだが。


「あれほどの数の寄生体がいるなんて」


「信じられません……」


 ゴルドカイゼルとティルトの兄妹は目の前の光景が信じられないようだが、ボクからすると至って当たり前の光景である。

 ティルトが怪我をして帰ってきてからかなりの日数が経っているのだ。

 その間にもパラサイトインセクト・デーモンは勢力を広げ続けていただろうし、ティルトよりも先に被害に遭っていた冒険者パーティもいる。

 その勢力圏はかなりの範囲に広がっていたはずだ。


 森の中が比較的侵食されていなかったのは、パラサイトインセクト・デーモンが植物に寄生できないことと大型の獣しか寄生に耐えられなかったことがあるのだろうな。

 そうでなければ、森の向こう側まで侵食は進んでいただろう。

 大型の獣が少ない森でよかった、ととるべきか?


 どちらにせよいま目の前にいるのは、数えるのも馬鹿らしい程の寄生体の群れだ。

 だが、これを倒さなければ本体であるパラサイトインセクト・デーモンにたどり着けない。

 少々覚悟を決めるか。


「アレク、突撃でどの程度の数を減らせると思う?」


『本気で行って20といったところか。それ以上倒せるかは侵食度合いによるな』


「それだけ倒せればひとまず牽制になるだろう。ゴルドカイゼルたちはランプたちから降りてくれ。本来の力を発揮できない」


「わかった。だが、寄生体相手とはいえモンスターシープで対抗できるのか?」


「その点は心配ない。アレク、ロイン、オファール。ゴルドカイゼルとティルトが降りたら本気を出せ。寄生体は残らず駆逐しろ」


「メェー」


 よし、いい子だ。

 さて、ボクたちも行くとするか。


 ボクはアレクの鞍に備え付けてあったランスに魔力を通す。

 ボクの魔力を受けたランスは、宝石のような輝きを強め、自身が光り出した。

 これで準備は大丈夫だな。


「行くぞ、アレク」


『承知!』


 アレクが一声いななくと、瞬時に風を切り裂き大地を駆け抜ける。

 寄生体の群れともすぐに肉薄し、その蹄で寄生体を踏み潰しながら奥へ奥へと進んでいく。

 ボクのランスにも寄生体が次々と刺さり、光に焼かれて塵となっていく。

 デーモンの寄生体とはいえ、元は獣だ。

 そこまで耐久力はない。


 しかし、群れを相手にする場合、一匹一匹の耐久度が低くとも貫いていける距離には限界がある。

 アレクの速度も接敵したときよりだいぶ落ちてきた。

 そろそろ向きを変えるべきだな。


「アレク、離脱だ!」


『任せろ!』


 アレクがその体を左方向に傾け、寄生体を押しつぶしながら進行方向を変えていく。

 このとき、勢いが止まってしまうため、寄生体が殺到することになるが、ボクのランスで振り払っておいた。

 穂先で貫くわけではないので倒せはしないが、身を守るには十分だ。

 そのように一瞬だけ攻撃を受けたあと、アレクは再度駆け出す。

 その途中にいる寄生体も踏み潰しながら、包囲網を脱出した。


「……いまの突撃でも敵が減ったようには見えないな。まったく、面倒なことこの上ない」


『そう思っているからこそ、ランプたちの真の姿を他人に見せることを選んだのだろう?』


「まあね。ここで手間取って消耗するとデーモンの相手どころではなくなってしまう」


 チラリとランプたちの方に視線をやれば、その姿が大きく変貌しているのがわかる。

 1本だった角が2本に、白色だった体毛が金色に。

 体の大きさこそ変わっていないものの、その有様は大きく変貌した。

 あれこそがランプたちの真の姿、エンシェントシープだ。


「ランプ、ロイン、オファール。寄生体どもを蹴散らせ」


「メェー」


「メェー」


「メェ」


 ランプが金色の炎、ロインが青く光る稲妻、オファールが緑色の霧をまとい寄生体へ突撃する。

 ランプたちが寄生体と接触すると、寄生体は燃え上がり、はじけ飛び、溶け出した。

 さすがの寄生体も命の危険を察知したのか逃げだそうとするが、それを逃すほどランプたちは甘くない。

 周囲を走り回り、すべての寄生体を取りこぼすことなく倒すことに成功した。


「すごいな。あれがランプたちの真の力ですか」


 僕のそばまで来たゴルドカイゼルが視線をランプたちに向けたままぽつりとこぼす。

 まあ、気持ちもわからなくはない。

 モンスターシープと言えばザコ中のザコとして認識されている。

 それがいきなり金色になってデーモンの寄生体をすべて倒してしまったのだから驚愕もするだろう。


「ランプたちの本当の種族はエンシェントシープだ。普段はモンスターシープに化けさせているが、本当に面倒な相手と遭遇したときのみエンシェントシープの姿をとらせている」


「強い相手ではなく?」


「エンシェントシープは力の消耗が激しく、攻撃能力は分散傾向にあるからな。一匹の強いモンスターを相手にするときはあまり効率的じゃないんだ。今回のように群れたモンスターを相手取るのが一番向いている」


「なるほど」


 ボクとアレクだけであの寄生体の群れを相手取るのは得策じゃなかったからな。

 最初の突撃で動揺させて隙を作り、そこをランプたちに突いてもらうのが一番効率的だった。

 デーモンとの戦いが控えている以上、消耗はなるべく避けないとならない。


「それでは、私たちがいた洞窟まで案内……」


「いや、その必要はなくなったようだ」


 ボクは空を見上げながらつぶやく。

 そこには6枚の翅脈を持つ羽を持ったデーモン、パラサイトインセクト・デーモンがいた。

 そのほかにも寄生体がまた群れでいる。

 ゴルドカイゼルたちを守りながら戦うのは不利か?


「……仕方がない。ロインはゴルドカイゼルたちを守れ。ランプとオファールは寄生体の殲滅、アレクはボクと一緒にデーモンの討伐だ」


「メェー」


『わかった』


「申し訳ありません。大事な場面でお役に立てず」


「気にするな、デーモンとはそういう相手だ」


 正直、デーモン相手ではBランク冒険者程度の強さと装備では心許ない。

 本来の予定では洞窟まで案内してもらい、安全を確認できたらそこに隠れていてもらう予定だったが仕方がないだろう。

 ここで迎え撃つ!


「行くぞ! デーモン!」


「ギジジジィ」


 パラサイトインセクト・デーモンが耳障りな鳴き声を上げながら突っ込んでくる。

 アレクはそれを回避しながら背後を取った。

 よし、攻撃のチャンスだ!


「はぁっ!」


「ギジジィ!?」


 ボクがランスでパラサイトインセクト・デーモンの羽のつけ根を突き刺す。

 さすがに貫通はできなかったが、突いた場所からどす黒い体液が流れ出している。

 これはなかなかのダメージが入ったな。


「ギュラァァァ!」


「おっと、危ない」


 パラサイトインセクト・デーモンが尻の先からなにかを飛ばしてきた。

 アレクはあっさりとかわしてくれたがあたっていたらこちらも大ダメージだったかもしれないな。

 本当にデーモンとの戦いは気が抜けない。


「ギャリィィィ!」


「おいおい、もう怒ったのか? 早すぎるだろう? もっと余裕を持って戦えよ!」


 パラサイトインセクト・デーモンが足で蹴りつけてきたが、それをかわし反撃の突きをお見舞いする。

 これもパラサイトインセクト・デーモンの体に突き刺さり、その体液をにじみ出させた。


「ギャルルルゥ……」


「ははっ、痛みには慣れていないのか? まだまだ行くぞ!」


 ボクはパラサイトインセクト・デーモンの動きが鈍った隙を見逃さず、連続で突きを決める。

 ランスのため少々重いが取り回しは普段から練習しているのでなんとかなった。

 突きも1発1発が確実にパラサイトインセクト・デーモンの甲殻を突き破り、着実にダメージを重ねて行っている。

 これはそろそろいけるか?


「そら、とどめだ!」


「ギャ!?」


 ボクはランスを振り回し、パラサイトインセクト・デーモンの首をはねた。

 パラサイトインセクト・デーモンの頭は宙に舞い、ボクの放った魔法で焼かれて塵となる。

 これで討伐完了か?


『アイオライト、まだだ!』


「なに!?」


 倒したと思い気が緩んでいたところにパラサイトインセクト・デーモンの蹴りが飛んできた。

 当たる寸前でアレクがかわしてくれたものの、かなりきわどかったな。


「あいつ、首を切り落としても生きているのか」


『あれが一時的なものか、放っておけばまた頭が生えてくるのかわからん。いまのうちに一気に仕留めるぞ!』


「わかった!」


 ボクは再度ランスに魔力を込めていく。

 先ほどよりも大量の魔力を注がれたランスは、赤い光を全体から放ち、特に先端は燃えさかるかのごとく輝いている。

 これなら問題なくパラサイトインセクト・デーモンを倒せるだろう。


「行くぞ! 屠れ、メルトチャージ!」


 アレクが宙を駆け抜けるのに合わせ、ランスも輝きを増していく。

 さらにボクとアレクも輝きに包まれ、赤い光の矢と化してパラサイトインセクト・デーモンの体を穿った。

 ボクに貫かれたパラサイトインセクト・デーモンの体には大きな穴が開き、そこから溶けるように体が崩れ落ちていく。

 よし、今度こそ討伐したな。


「メェー!」


「今度はなんだ!?」


『パラサイトインセクト・デーモンによって統率されていた寄生体が主を失い逃げ出したようだ。だが、あの方角はまずいな』


「あの方角……ヘメトの街か!」


 本当にまずいな。

 ランプたちも飛べるが、地を走るほど速くはない。

 取り逃した数は少数のようだが、それでも街の住民や低ランクの冒険者にとっては十分過ぎるほどの脅威だ。

 早く追いかけて討伐しないと!

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