37. 呪いの発生源へ
事情聴取から2週間ほどが経ち、ティルトが動けるようになったので呪いを受けたと思われる洞窟へと向かう。
洞窟まではなるべく急ぐため、ゴルドカイゼルとティルトにはランプたちに乗ってもらった。
普段は目立たないよう誰も乗せないようにしているが、本来であればランプたちも人ひとり乗せて走るなど苦もないことだ。
なるべく急いで洞窟まで向かおう。
「ゴルドカイゼル、道はあっているか?」
「はい。もう少しすると道が途切れて森に入ります。そこをまっすぐ抜ければ目的の洞窟がある山の麓です」
「わかった。もう少し急ぐが大丈夫か?」
「はい、私は。ティルトは大丈夫か?」
「私も大丈夫です」
「では、飛ばすぞ!」
ボクたちは一気に森の中へと踏み込んでいく。
だが、ある程度進んだところでアレクやランプたちの足が止まった。
遅れてボクも邪悪な気配に気づく。
どうやらあちらのほうが早かったようだ。
『アイオライト、どうする?』
「騎乗戦闘では不利だが、この場で迎え撃つ。ランプたちはふたりを連れて下がっていろ」
「メェー」
ランプたちが下がったことを確認してからボクは背中の杖を抜く。
あちらは包囲する気はないらしい。
ボクたちを1カ所に集めたいのか?
誘いに乗ってやるつもりもないし、各個撃破といこう。
「行くぞ、アレク!」
『任せろ!』
アレクが高くいなないて森の中を駆け出す。
木々を左右に避けて走りながら最初の目標へと近づいた。
目標はやはり冒険者風の装備をした男である。
ただし、その背中には虫の羽が生えているのだが。
「お前たちに恨みはないが、そこまで呪いが進行すると助けられん。呪いを振りまかれる前に仕留めさせてもらう」
「ギギッ!」
すでに人の声すら発することはできないか。
まあ、いい。
その方が心置きなく倒せるというものだ。
アレクは男に近づくと男を飛び越え背後を取った。
そのまま後ろ足で蹴り上げたが、ガキンという金属音が鳴り響くだけで男はあまり動かない。
やれやれ、服の下は甲殻か。
本当に面倒な。
「ギギギ!」
『おっと』
男が振り向きざまに爪で攻撃してきた。
アレクは難なくそれをかわすが、少し距離を取られてしまう。
これではボクの追撃は難しいな。
「ギギ!」
「ギ、ギギッ!」
そこに残りの敵も襲いかかってきた。
彼らも冒険者風の装備に身を固めているが、虫の甲殻と羽を持っている。
これがゴルドカイゼルの言っていた、普段霊薬集めをしていたパーティか。
「でえぃ!」
「ギギィ!?」
ボクは杖に聖炎を宿して襲いかかってきた冒険者たちを力強く薙ぎ払った。
なるほど、単純な打撃は効かないが聖炎をまとった攻撃は有効なんだな。
「アレク、ボクが奴らを仕留める。援護を!」
『承知!』
アレクがまた走り出し、冒険者のひとりの真横へと移動する。
ボクはその移動速度も威力に変えて聖炎を宿した杖でその冒険者の胸を貫いた。
すると、その冒険者は白い炎に包まれて燃え上がり、絶命したようだ。
よし、残りふたり!
「次だ!」
『待て、アイオライト。残りのふたりは逃げ出している。追撃すると深追いになりかねん。それでも追うか?』
「逃がすほうがまずい。本体のデーモンと戦い前に戦力はなるべく削いでおきたいからね」
『承知した。急ぐのでしっかり捕まっていろ!』
ボクはアレクの指示通りにしっかり手綱を握りしめる。
それを確認したアレクは、足に炎を宿して空を駆け始めた。
途中を遮る木々はすべて炎で焼き払い、先に逃げ出していたふたりへと一気に肉薄する。
まずはひとり!
「はぁッ!」
「ギギ!」
逃げ出していた冒険者のうちひとりがボクに頭を叩き割られ、聖炎で焼かれて絶命する。
彼らは寄生された結果、虫系のデーモンとなっているため頭を潰しただけで死ぬ可能性は低いのだ。
体のどこかにある寄生核が本体なのである。
だが、それがどこにあるのかは外見では判断しにくいため、まとめて聖炎で焼き払ったほうが早い。
さて、もうひとりの方は……。
『まずいな、このままでは森を抜けられてしまう!』
「追いつけるか、アレク!」
『任せろ! ……む!?』
アレクが駆け出そうとした瞬間、左手側から突進してきた者がいる。
イノシシだ。
それもただのイノシシではなく、寄生されたイノシシだ。
これは先に倒さないと進めないな。
アレクは勢いよく前足で踏み潰すが、寄生されたイノシシはその程度では死なない。
炎で焼かれながらも、アレクを押し返そうとしている。
これでは時間を取られてしまう。
「アレク、ボクがとどめを刺す!」
『すまない!』
アレクが身を翻し、イノシシに側面を向けたところをボクが杖で吹き飛ばした。
聖炎でも焼いておいたため、これであのイノシシも滅ぼせただろう。
問題は最後の冒険者風の男だが……。
「逃げられたか」
『そのようだ。追うか?』
「さすがに森の外まで逃げられているのではまずい。戦力を集中されるだろうが割り切るしかないだろう」
『そうだな。ランプたちを呼んでもいいか?』
「その前にこの付近に寄生体がいないかの調査だ。アレクの炎であれだけ生存できるのでは、森ごと焼く覚悟がないと聖炎以外では手を打てない」
『それもそうだな。では、森の中を調べるとしよう』
ボクたちが森の中を調べると、いたるところに寄生体が見つかった。
ただ、大型の獣以外に寄生しても体が保たなかったのか死んでいるものが多く、聖炎で浄化するだけで済んだのはいいことだろう。
少しだけ戦闘にはなったが、まだ複雑な戦闘はできないみたいで軽々と倒すことができた。
そのあとランプたちに乗ったゴルドカイゼルたちに合流したが、そちらでは寄生体を見かけていないらしい。
どうやら、この森では寄生が途中までしか進んでいなかったようだ。
幸運、と考えるべきだろうな。
ともかく、ボクたちの存在はばれてしまった。
戦力を少しでも集められる前に決着をつけなくては。
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