35. ジルコットへの依頼とラズの説得
ボクはテイマーギルドに戻ると今回の依頼の結果を伝え、冒険者ギルドに注意を促すこともお願いしておく。
さすがにグレーターディスペルが必要なほどの呪いが蔓延すれば、呪われた者を救助するよりも殺した方が早く確実だ。
そうなる前に手を打たないと。
でも、これではボクは今回の一件にかかりきりになるな。
ラズをどうするべきか。
……ふむ、ジルコットにでも相談してみるか。
冒険者ギルドに行くと丁度ラズが今日のクエスト結果を報告に来ているところだった。
そして、ボクが冒険者ギルドを訪れた理由でもあるジルコットもいる。
受けてもらえるかわからないが少しお願いしてみよう。
「なるほど。アイオライトがゴルドカイゼルの依頼にかかりきりになるから、その間ラズの面倒を見てもらいたいと」
「そうなる。とてもではないがラズの面倒を見ながら対応できる問題じゃない。スピネルも貸し出すので引き受けてはもらえないか?」
ボクがスピネルを貸し出すと言ったことに対し、ジルコットは驚愕の表情を見せた。
テイマーが自分のモンスターを他人に預けるなんてよっぽどのことだからだ。
ジルコットはそこも知っているらしい。
「おいおい、それは正気か?」
「正気も正気だ。正確に言うと、今回の依頼で対峙する可能性のある相手だとスピネルは足手まといだ。経験を積むこともできない。安全な場所に退避させておくという意味でも、スピネルはなんらかの理由で別の場所に預けたい」
「……うーむ、そこまでの相手か。なにと戦うんだ?」
「断定はできないがデーモンの類いの可能性もある。一番高確率なのはパラサイトインセクト・デーモンだな」
「パラサイトインセクト・デーモンって。上級デーモンじゃないか?」
「だからこそだ。正直、Bランク冒険者のゴルドカイゼルとその妹のティルトも太刀打ちできないだろう。デーモンの相手はボクと従魔だけで行うつもりだ。まだ情報不足だが、だからこそ弱い者は連れて行けない。お願いできないか?」
ボクの言葉にジルコットは少し考え、ひとつ頷き結論を出したようだ。
それがボクにとっていい結論であればいいが。
「わかった。依頼としてなら引き受けよう。正直、俺もデーモン、それも上位デーモンなんて相手にしたくないし相手にする未来を考えるだけで逃げ出したくなる。それを未然に防いでくれるならお安いご用だ」
「すまない。依頼料は……これくらいでいいか?」
ボクはテーブルの上に金貨を数枚並べる。
だが、それを見てジルコットの方が焦り始めた。
そんなに高額だっただろうか?
「おい、そんな金を酒場で出すな。見られたら厄介だぞ」
「ああ、そういうことか。すまない、少なかったのかと」
「そっちもだ。何日間を想定しているのか知らないが、あまりにも高額すぎる」
「高額なのは宿を移ってもらうことも含めてだ。申し訳ないが、宿をボクたちが使っている宿に変えてもらいたい。スピネルを狙う相手につきまとわれたくないからな」
「なるほど、お前たちの宿はそれなりに上等な宿ということか」
「そうなるな。金額は……また明日、テイマーギルドで話そう。今日は依頼を受けてくれるかどうかの確認だけしたかった」
「そうか。それなら、俺としても問題ない。直近どころかこの先も長期間拘束される依頼は受けていないし、高額の依頼料が発生する依頼とあれば安全性を考えて受ける用意がある。街から離れた場所で狩りを行えとは言わないんだろう? それなら俺にとって美味しい仕事だ」
どうやらジルコットの了承は得られたようだ。
あとは、ラズだな。
「ラズ、聞いていたな。しばらくはジルコットにいろいろと教えてもらえ。ジルコットは冒険者だ。ボクよりも冒険者については詳しい。そこの知識を埋めることを重点的に考えろ」
「……わかりました。私はついていけないんですよね?」
「申し訳ないが、その通りだ。スピネルより弱いお前は足手まとい以外のなにものでもない。相手がインプを使役する程度の能力しかない最下級デーモンであれば後学のために連れて行くことも考えられるが、今回の状況はどう考えても中級以上のデーモンによるものだ。ラズの命を守るためにも連れてはいけない」
「はい。それではアイオライトさんの言う通りしばらくはジルコットさんにいろいろと教えてもらいます」
「すまないな。今回ばかりはどうしようもない」
ラズの了解も渋々ながら得られたようなので、今日はこれでお開きだ。
ジルコットとは明日の朝、テイマーギルドで合流して詳しい内容を話す。
あと、スピネルの説得も残ってはいるが、アレクと一緒に説得すれば折れてもらえるだろう。
今回ばかりは個人の要望を一切聞くことはできない。
上位デーモンとはそれほどの相手だ。
ボクが上位のテイマーだからこそなんとかなるが、ボクだってあまり戦いたくないんだからさ。
本当に、予想が外れてほしいと願うものだよ。
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