34. Bランク冒険者からの依頼

 モールの襲撃からまたしばらく経ち、ラズがEランク冒険者となった。

 地道にコツコツと鍛え続けている成果だな。

 大変好ましい。

 ボクの方はラズが休みの日に魔術書を読ませるようにしている。

 ラズにどの程度の魔法適性があるかはわからないが、初級魔法だけでも覚えておけば戦略の幅が広がる。

 魔術書の読み方は教えているし、そう遠くないうちに魔術書も読み終わるだろう。


 そういう風に毎日を過ごしていると、急にテイマーギルドから呼び出しを受けた。

 なんでも冒険者ギルドから依頼が回って来たらしい。

 一体どういうことか?


「冒険者ギルドでアイオライト様が治癒魔法も使えることが知られているのが原因のようです。依頼内容もある人物の治療と書かれていました」


「そういうことは街の教会や神殿の仕事では?」


「付帯事項として街の教会や神殿、ポーションも試したようですがすべて効果がなかったと」


 ふむ、それほど重い症状か。

 ただ、そこまで重くなるとボクでも治療しきれるか怪しいな。

 治療できるかは診断してから、という条件で受けさせてもらおう。

 積極的に受ける理由はないが、助けられる命を見捨てるのは気に食わないからね。


 冒険者ギルドにテイマーギルドから返答を送ってもらい、依頼主が訪れるのをしばらく待った。

 すると、そんなに経たないうちにテイマーギルドを立派な鎧の大男が訪れる。

 テイマーギルドの受付に話をしに言っているし、この男が依頼主との仲介役か?


「お待たせしました。アイオライト様、彼が依頼主のゴルドカイゼル氏です」


「待たせてすまない。私が依頼主のゴルドカイゼル、Bランク冒険者だ」


「ボクが依頼を受けることになったアイオライト。本職はテイマーだがドルイドの知識と技術も持っている。それで、治療するのは君か?」


「いや、治療してもらいたいのは妹なんだ」


 妹?

 詳しく話を聞くと、ゴルドカイゼルは妹と組んで冒険者をしてきたらしい。

 だが、その妹が突然病に倒れてしまい、動けなくなったそうだ。

 この街の教会や神殿はすべて当たったが治療できず、ポーションも試したが効果なし。

 ここまでは依頼内容にあった通りだな。

 もう少し詳しい内容はないものか。


 ボクに話を振られたゴルドカイゼルは少し考え込み、言葉を選ぶように発言する。


「まずは食欲があまりない。それから、右目だけ赤く染まっている。体を動かすのにかなり不自由をしている。私が知っているのはこの程度だ」


「ふむ、それでは詳しい症状はわからないな。依頼は受けさせてもらうが治療を確約するものではない。そこは承知しておいてくれ」


「それでもお願いする。妹は私に残された最後の肉親なんだ」


 状況から判断するにあまり猶予がないように感じるので、すぐゴルドカイゼルの妹の元へと案内してもらう。

 彼の家は住宅街にある一軒家だった。

 それなりの値段はするだろうが、Bランク冒険者ともなれば稼ぎが多いのだろう。


 家の中にお邪魔させてもらうと、目的の人物は2階の寝室で休んでいるらしい。

 そこまで案内してもらうことにしたが、なんとなく家の中の空気が重たい。

 これはなんだ?


「ここだ。この部屋に妹のティルトがいる」


「ああ、そうか。すまない、考えごとをしていた」


「考えごと?」


「この家の空気が重い。理由は思い当たるか?」


「いや、定期的に換気はしているつもりだが……」


 この空気の重さは換気が足りないなどではないな。

 おそらく妹さんの症状に起因するものだろう。

 そうなると妹さんは病ではなく……。


「ともかく診察をするとしよう。それでわかることもあるかもしれない」


「あ、ああ、そうだな。よろしく頼む。俺はここにいるからなにかあったら声をかけてくれ」


「部屋の中には入らないのか?」


「男の俺が部屋の中にいるとまずいこともあるだろう?」


 なるほど、気遣いもできるわけだ。

 ボクは部屋の扉をノックしてみる。

 しかし、反応はない。

 眠っている可能性もあるが、反応できない状況になっていることも考えられる。

 ボクはゴルドカイゼルに許可を取り、部屋の中へと入った。


「……眠っているのか?」


「いや、これは仮死状態。あるいは変化前の生命停止期間というべきか」


「仮死状態? 生命停止期間?」


「ああ。どちらにしてもこの状況は少しどころではなく危ない。少々強引な手段になるが治療させてもらうぞ」


「わかった。妹をよろしく頼む」


 ボクは杖を取り出し、その先端をティルトの胸の上に当てた。

 まずいな、本当にぎりぎりだったかもしれない。


「グレーターディスペル! スピリットリターン! ウェルネススピリット!」


 ボクが扱える中でも最高位の魔法を3回発動させる。

 まずは彼女の呪いを解き、魂を呼び戻し、魂を正常化させる。

 呪いの解除以外はドルイドの上級魔法だ。

 こればかりはボク以外とどうにもできなかっただろう。

 ボクが放った3つの魔法の輝きはティルトに吸い込まれ、体をむしばんでいた呪いをすべて打ち消した……はずだ。

 さすがにこれ以上はボクにもどうしようもない。


「ん、んぅ……兄さん?」


「目を覚ましたか! ティルト!」


「え? 私、どうして?」


「いまは落ち着いて休め。詳しい状況説明は明日にでもまた行う」


「ああ。それで、今回の治療報酬だが……」


「治療報酬だが、お前の戦力を借りた討伐を込みで考えてくれ。どこであんな呪いを拾ってきたのか知らないが、放っておくにはたちが悪すぎる」


「呪い?」


「人を蟲人に変える呪いだ。発生源を潰さなければ、下手をするとこの街が潰れる」


 あまり冒険者的な行動は取りたくなかったのだがな。

 状況が状況だけに全力で手伝わせてもらうか。

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