30. 新装備での戦闘
ホルムからヘメトに戻り、1日間をおいてから冒険者ギルドに顔を出す。
今日はどんなクエストを受けさせるべきか。
「あ、アイオライトさん。おはようございます!」
「ん、君は?」
冒険者ギルドに入るなり見知らぬ冒険者から声をかけられた。
はて、どこかで会ったことがあるだろうか?
「あ、アイオライトさん。ジルコットさんが薬草採取について教えてくれたとき一緒にいた冒険者さんですよ」
「ああ、そうか。すまない、忘れていたよ」
「いえ。それよりも、そちらの革の鎧に身を包んだ人があの時一緒だったラズさんですか? ずいぶん変わりましたね」
「まあな。宿と食事代はボクが支払っていたとはいえ、装備代は自分で支払わせた。甘やかしている自覚はあるが、無駄に死なせないための努力だよ」
「そ、そうですか。それなら、ラズさんと俺たちでひとつクエストを受けたいのですが」
クエストを?
ラズとか?
詳しく話を聞くと、この周囲の森でゴブリンの発見情報があったらしい。
見つけたのは薬草採取をしていたFランク冒険者で、気付かれる前に逃げ出すことに成功したため冒険者ギルドからこのクエストが発行されることになったそうだ。
クエストのランクはEだがFランク冒険者でもEランククエストを受けることはできる。
彼はEランク冒険者だが普段ひとりで行動しているため、仲間を探していたそうだ。
ふむ、話におかしなところはない。
ラズに決めさせるとするか。
「え? 私が決めていいんですか?」
「別にボクがすべてを決めるわけでもないしな。ただ、今回の依頼はボクの助力なしでやってもらう。いいか?」
「わかりました。この依頼を受けてみます!」
ラズの返事を聞いた途端、話しかけてきた冒険者が渋い顔をした。
どうせボクの戦力が目的だったのだろう。
ボクは冒険者ではないから冒険者ギルドの依頼を受ける理由がない。
ここはラズたちだけで頑張ってもらうとしよう。
さて、どの程度頑張れるかな?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
(ラズ)
アイオライトさんは宣言通り私に付いてくることはなく、スピネルもアイオライトさんと一緒にどこかへ行ってしまった。
いま私と一緒にいるのは最初に私へ声をかけてきたEランク冒険者の『ワット』さんに同じくEランク冒険者の斥候『ガウン』さん、Fランク冒険者の魔術士『モール』さんの3人である。
ワットさんとガウンさんはゴブリン退治を何度か経験しているらしく、慎重になってはいるが気は引き締まっている。
対してモールさんは今回が初めてのゴブリン退治で腰が引けていた。
大丈夫かな、この人。
「ガウン、足跡はないか?」
「まだ見つからない。目撃情報があったとされる場所はこの辺りなんだが」
どうやらこの周囲でゴブリンの目撃情報があったらしい。
周囲は鬱蒼と覆い茂った森の中だ。
暗闇の中でもよく目が見えるゴブリンにとっていい狩り場である。
大丈夫なのかな?
私たち、うまく誘い込まれてない?
「と、ところでワットさん。今回目撃されたゴブリンは何匹くらいなんだ?」
震えた声でモールさんがワットさんに話を聞く。
でも、その話なら出発前のブリーフィングで聞いたよね?
そんなに落ち着いていなくて大丈夫?
「目撃情報があったのは3匹だ。だが、実際にいるのは3匹ではすまない可能性がある。だからこそ人数を集めたんだ」
「お、おう!」
「大声を出すな。やつらに気付かれるぞ」
「は、はい……」
私たちはそのあともゴブリンを探して1時間くらい周囲を歩き回った。
だけど、ゴブリンの痕跡は発見できないでいる。
ただ、妙なところがあるんだよね。
茂みが微妙に歪んでいたりとか。
「うーん、ガウンさん。そこの茂みってなんだか怪しくないですか?」
「怪しい? どういう風にだ?」
「ええと、なんとなく説明しにくいんですけど、不自然に曲がっているというか」
「……どれ、そこを調べてみよう」
ガウンさんが私の指さした茂みを調べ始める。
すると、すぐになにかを見つけたようで、私たちの元へと戻ってきて状況を説明してくれた。
「ゴブリンの足跡を発見。数は2匹分。ただ、かなり真新しい足跡だ。おそらく、こちらのことを見つけて逃げ出したんだろう」
「……まずいな。足跡はどこに向かっていた?」
「森の奥へ向かっている。どうする、一度出直すか?」
ワットさんとガウンさんの間ではいろいろな戦闘パターンを想定しているのだろう。
ただ、いまの状況が相当私たちに不利になっていることは間違いない。
薄暗い森の中で既に発見されていた、かなり悪い状況だ。
なんとか打開する一手は……。
「よし、先に進むぞ」
「……そうだな、いまから逃げ出しても後ろから襲われる可能性があるか」
「決まりだ。俺たちは森の奥へと……」
「待ってください。考えなしに森の奥へ進むのは危険です」
私はふたりの意見に割って入った。
私だってまだ死にたくない。
二度とあんな惨めな思いをするのはごめんだ。
「ゴブリンは暗いところでも物がよく見えます。それに鼻もいいです。闇雲に進んではいい的です」
「それはそうだが、ではどうする? 逃げ出すのは得策じゃないぞ」
「私に考えがあります。いま、ゴブリンたちがいる方角は風上側。それなら、私たちが迂回することで正面から激突することを避けられるでしょう」
ワットさんは風向きを調べ、私が言っていたことが正しいことを確認すると、私の案に賛成してくれた。
ガウンさんも正面突破を避けられるならと乗り気で、モールさんだけが消極的だったが、どちらかというとモールさんは逃げ出したかっただけなのだろう。
ワットさんとガウンさんのふたりに説得され従うことになった。
ここから先はワットさんが先頭を行き、弓を使えるガウンさんと魔術士のモールさんが間、私が最後尾という隊列になる。
遠距離攻撃をできるふたりがいきなり正面から攻められないようにするためだ。
側面からの攻撃には対処できないがどうにもならない。
もっと人数がいれば別だろうけど、私たちはこのメンバーなんだから。
進む方向を変えてしばらく経つと、木の上にゴブリンがいるのを発見できた。
どうやらあそこで私たちを待ち構えていたらしい。
ほかのゴブリンたちの姿は見えない。
もっと奥で待ち伏せしているんだろう。
さて、どうしようか。
「奥を調べるぞ。あれは俺たちを見つけたときに知らせる役目も持っているはずだ」
「了解。……モール、どうした」
「あれ、あれが、ゴブリン。……うわぁー!?」
モールさんがいきなり大声を上げると魔法で火の矢を放つ。
しかし、モールさんの大声に気付いたゴブリンは木から飛び降りて火の矢を回避した。
まずい、私たちの居場所がばれた!
「どうする!?」
「どうするもこうするもあるか! この場で戦う!」
「わかった! ラズもモールも行けるな?」
「はい!」
「わ、わかった!」
モールさんの行動によって先制することはできなくなったけど私たちならやれる!
森の茂みの向こうから足音が聞こえ、突然ゴブリンが4匹飛び出してきた。
ガウンさんが1匹を矢で射落とし、ワットさんが1匹を盾で、1匹を剣でねじ伏せる。
私はゴブリンの攻撃を盾で受け止め剣で反撃した。
私の一撃で襲いかかってきたゴブリンのうち1匹は倒され、残りの3匹も既に倒されているようだ。
やっぱり、Eランク冒険者って強い。
「気を抜くな、ラズ! こいつら、弓を持っていない!」
「は、はい!」
ガウンさんの声にはっとした私は慌てて森の奥へと振り向いた。
するとゴブリンの放ったであろう矢が何本か飛んできて私の盾に当たる。
全部私の盾に当たって地面に落ちたようだけど、この盾すごい。
防具を選ぶときは鎧だけじゃなくて盾も選ばなくちゃだめなのか。
アイオライトさんには感謝だ。
「ラズの嬢ちゃん! そのまま盾になれるか!?」
「はい! いけます!」
「よし! ガウン、モール、矢と魔法をあの暗がりに叩き込め!」
「おう!」
「任せろ!」
私とワットさんが盾になり、その影からガウンさんとモールさんが攻撃をする。
こちらからあちらは見えていないけれど、くぐもった悲鳴と飛んでくる矢の数からゴブリンの数が確実に減っていっているのがわかる。
そして、しばらくするとゴブリンの矢が飛んでこなくなった。
……でも、ここで気を抜いちゃだめなんだよね。
アイオライトさんからはしっかりとそう教わった。
「や、やった!」
「馬鹿、モール! 盾の影から身を乗り出すな!」
「え?」
ガウンさんが忠告すると同時に矢が1本飛んできてモールさんの腕を貫く。
幸い急所は外しているみたいだけど、かなりの深手だ。
こんなとき、どうすれば?
「クソッ! ガウン、ひとりで行けるか?」
「なんとかな。あの1匹以外にまだいたら逃げるぞ」
「わかった。ラズ、悪いがそのままモールの前で盾になっていてくれ!」
「はい!」
矢は散発的に飛んでくるけど、あまり数は多くない。
ガウンさんが森の奥に生き残っていただろうゴブリンを仕留めに行き、少し経つとゴブリンの矢も止まった。
これで私たちの勝ちだろうか?
「ゴブリンの生き残りは片付けた。簡単に調べてきたが逃げた痕跡もない。すべてのゴブリンを討伐できたみたいだ」
よかった、これでモールさんの治療もできる!
私とワットさんが警戒している間にガウンさんが応急処置を施し、モールさんも動けるようになった。
ゴブリンの死体からは討伐証明となる部位と魔石を回収し、死体を埋めたら足早に森を抜ける。
森を出て街まで戻るとようやく安心することができた。
よし、私はゴブリンにも勝てるようになったんだ!
最初の頃に比べればかなり成長したぞ!
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