29. ホルムの街で装備調達

 大角ウサギを初めとしたFランクモンスター討伐も軌道に乗り、2カ月が経つ頃には資金もだいぶ貯まった。

 そろそろラズの防具を更新させるとしよう。

 目的地はヘメトよりさらに北にある街ホルムだ。

 ジルコットなどほかの冒険者に聞く限り、革製品の生産量が多く、革の防具も様々なバリエーションが揃っているそうだ。

 今回はラズが自分で稼いだ資金を元に装備を選ばせる。

 さて、どんな装備を選ぶだろう。


 僕たちは馬に乗り、開門と同時にホルムへと向かう。

 ラズもスピネルの全力疾走に慣れてきたのか、姿勢蘇正しく保ち体に負担をかけないようにしている。

 これならば今日の夜の閉門前にはホルムにたどり着けそうだ。


「ラズ、腰は大丈夫か?」


「はい。もう慣れました。それよりも今回は私が装備を選ぶんですよね? 大丈夫でしょうか」


「それを失敗して学ぶのも冒険者の経験だ。とはいえ、何回も買い直させるほど余裕もない。店くらいはボクが選んであげよう」


「お願いします、アイオライトさん」


 ホルムの街へは本当に閉門前に着けた。

 野宿せずに済んだ分、野営物資が浮いた結果となる。

 ボクは早速テイマーギルドを探し、おすすめの宿を紹介してもらってから宿を取った。

 うん、この宿もなかなかいい宿だ。

 ホルムの街に来ることは滅多にない……どころか、この先もうないかもしれないが覚えておこう。


 翌日は革装備工房が建ち並ぶ工房街で買い物だ。

 だが、調子はいまいちである。

 Fランク冒険者が身につける物を探しに来た子供というのがいけないのだろう。

 どこに行っても門前払いだ。

 まったく、人を見かけだけで判断するとは情けない。


 そんな調子で追い出され続けて7軒目、ようやく話を聞いてくれる店主が現れた。

 どうやらこの工房では低ランク向けの装備も取り扱っているらしい。

 ボクが質を確認してみても問題ないし、この店で選ばせるとしよう。


「ラズ、この店で防具を探してみろ」


「わかりました。アドバイスはありますか?」


「そうだな。まだ動きがあまり阻害されない物の方がいいだろう。プレートアーマーになれば自然と体の動きが固定されるからその前に慣れるのも手だが、いまのお前ではまだまだ早い。まずは動きを阻害されず、なおかつ防御範囲が広いものを選べ。ああ、予算に収まるようにしろよ」


「はい。それでは!」


 ラズはウキウキしながら店の品を調べに行った。

 店主もそれについていちいち口を挟んでこない。

 どうやら、ボクが言った内容を察してくれているのだろう。

 うむ、いい店だ。


「アイオライトさん、これなんてどうでしょう?」


 ラズが持ってきたのはチェインアーマーの上に革の鎧を付け衝撃吸収剤にした物だ。

 なるほど、目の付け所はいい。

 だが……。


「ラズ、値段は?」


「値段……あ、これだけで予算をほとんど使っちゃう」


「それがあれば上半身の守りは完璧だろう。だが、ほかの部位、特に頭と脚を守る装備を忘れるな」


「はい」


 ラズはチェインアーマーを元に戻し、再び装備を探し始める。

 と、そこで店主がボクに対して興味深げに聞いてきた。


「嬢ちゃんがあっちの装備を選んでいる嬢ちゃんの師匠か?」


「師匠という程かどうかはわからないが、鍛えてやっているのは事実だな」


「なるほど。今日の装備代は?」


「ラズに稼がせた金だ。もっとも宿や食事の代金はボクが持っているので純粋にクエスト報酬が入っただけだが」


「ふむ、装備代は自腹か。あの嬢ちゃん、どんな物を選ぶかね」


「よほど変な物でもなければ止めないよ。装備選びで失敗するのもまた経験だ」


「違いない」


 その後ラズが持ってきたのは、腹部までぎっしりと革を詰め込んで守るようにした革鎧と肘まであるガントレット、腹部から腰までを守る短ズボン、それに連結させることができる革の股引、脚のスネ周りを守るグリーブ、内部に鉄板を仕込んである革の兜だ。

 そのほか、革でできたシャツやズボンなども持ってきている。

 かなり真剣に選んできたな。


「ほう、ずいぶんと厳重に体を守ろうとしているじゃねぇか」


 これには店主も面白そうな声をあげる。

 実際、ここまで全身をしっかり守る装備を持ってくるとは思わなかった。

 現実的に重くて動けるのか怪しいが、装備としては合格点だろう。


「ラズ、そんなに買い込んで大丈夫か?」


「予算内には収まっています。どうでしょう?」


「とりあえず、選んだ装備としては合格だ。でも、それを身に着けて動き回れるのか?」


「あ、そこまでは……」


「まったく。店主、鎧だけでも試着してもいいか?」


「構わねぇよ。身に付け方はわかるか?」


「ああ、いや、それも……」


「仕方ねぇな。おい、そっちの師匠の嬢ちゃん。手を貸してやんな」


「ああ、仕方がない。ラズ、鎧の装備の仕方は覚えろ。いまの鎧はひとりでも身に着けられるように工夫されたものがほとんどだ」


「はい、わかりました……」


「では、更衣室に向かうぞ」


 ボクはラズに更衣室でマントを脱がせ、その上から革鎧を身に着けさせていった。

 その際に自分で装備するときの注意点を教えるのも忘れない。

 革鎧の装備は5分ほどで終わり、それをもう一度外してから、ラズひとりで身に着けさせるまでさらに15分ほどかかった。

 まあ、初めてにしては上出来だろう。

 問題はそのまま動けるかどうかだな。


「あれ? 体をひねれない?」


「その鎧は下半身まで巻き付けているからな。無理をすればひねれるだろうが、基本的にはひねることはできないと思え」


「ええと、体を半身にしたい場合や横を向くときはどうすればいいのでしょう?」


「鎧ごと向き直れ。要するに、上半身をひねるのではなく、体全体を動かすんだ」


「つまり足運びが重要なんですね」


「そうなるな。で、やっていけそうか?」


「はい! なんとかしてみせます!」


 返事は一人前だが本当に大丈夫か?

 ラズの金で買う物だしあまり余計な口を挟むつもりはないが。


 ラズは一通りの会計を済ませたあと、店主の好意で鎧などの調整をしてもらえることになった。

 本来はこれだって有償のサービスなのだ、そこまで理解して買い物をしなくてはいけない。

 ラズはそこまで頭が回っていなかったようだがな。

 あと、ラズは盾を買い換えるのを忘れていたので、ボクが体を覆い隠せるほど大きなカイトシールドを買い与えておいた。

 これも木の板に革を何層も貼り付けて強化した装備である。

 ラズはまだ金属製の盾を持てないだろうからこれで十分だろう。

 防具の調整には明後日までかかるらしいから、防具を受け取った翌日ヘメトに帰還だな。

 今回の買い物はラズにもいい勉強になっただろう。

 次の買い物時は今回の経験を生かしてもらいたいものだ。

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