28. 大角ウサギの討伐依頼
あれから2カ月が経ち、ラズに文字を教え始めて3カ月が経過した。
日々の勉強の甲斐あり、一般的な文章の読み書きはできるようになっている。
書く方は怪しいが、難しい文章でない限り自分で読めるようにはなった。
まずまずの進歩だ。
いまは、自分でクエストボードに貼られているクエストを読ませている。
勉強の一環として始めた行為だが、自分の仕事ともあってなかなか集中力を引き出せているようだ。
なにごともやる気が一番だな。
「うーん、アイオライトさん。こっちのクエストとこっちのクエスト、どちらも同じ大角ウサギを狩る内容なのに報酬がこんなに違うんですか?」
ラズが示した先には確かに大角ウサギの討伐クエストが張られている。
だが、ラズは細かい条件まで見ていないようだ。
説明するとするか。
「ラズ、依頼の説明までよく読め。片方は常設の大角ウサギ討伐だが、もう片方は街の精肉ギルドからの討伐依頼だ。要するに、大角ウサギの肉が目的の依頼となる。大角ウサギの討伐証明はその角だが、こちらの依頼では大角ウサギの肉をきれいに持ち帰る必要があるんだ」
「なるほど、それでこんなに高かったんですね」
「大角ウサギは毒がないモンスターなので食用としても重宝されている。だが、討伐しても肉は重く嵩張るし、血の臭いが充満してほかのモンスターや野生の獣を引きつけることとなるんだ。だから、肉をすべて持ち帰る冒険者など少ないし、それだけ貴重な肉となる。味もいいしな」
「そうだったんですね。これ、受けてみてもいいですか?」
「ああ、いいだろう。これまでに血抜きの方法やモンスター肉の運び方も教えた。その実習として受けてみるといい」
「はい! これは常設のクエストではないのでクエスト票を剥がして持っていくんでしたっけ」
「この国ではそうなっているようだな。行ってこい」
「わかりました、行ってきます!」
ラズはクエスト票を剥がすと急いでクエスト受付カウンターまで持っていった。
もう朝の混雑時間は過ぎているし、その時間帯に受け付けられなかったクエストなのだから横入りする者もいないだろう。
実際、クエストの受注はすぐにできたみたいだ。
「受注完了しました。今日の夕方までに持ってきた大角ウサギの肉が対象となるそうです。きちんと処理してあれば報酬額の上乗せもしてくれるそうですよ!」
「報酬額の上乗せがあるということは、下処理に失敗している肉は買い取り拒否か買取額が下がるということだ。そこまできちんと聞いておけ」
「あ、そんなことも言われていました……」
「まったく。依頼の説明は
「はいっ!」
ボクたちは馬に乗り大角ウサギが住んでいる草原を目指す。
馬なら数十分の距離だが、歩くと2時間はかかるだろう。
それもこの依頼が受注されていなかった理由なんだろうな。
「大角ウサギ、どれくらい見つかりますかね?」
「探すのはそんなに難しいことじゃない。あれは自分から相手に襲いかかってくる獰猛な種族だ。気を付けなければいけないのは、その名が示す大角を使った突進攻撃。馬ほど速くはないがかなりのスピードで飛び込んでくる。あまり群れないのがせめてもの救いだな」
「わかりました。それでは索敵を始めますね」
ラズはスピネルから降り、剣と盾を構えて慎重に歩き始めた。
ボクの気配察知だとまだこの辺りには大角ウサギはいない。
だからこそこの付近で足を止めたのだ。
大角ウサギは馬だろうと襲いかかってくるからな。
油断はできないのである。
ラズが慎重に歩みを進めていると、その先に大角ウサギの角が見えた。
どうやらまだこちらには気がついていないようだ。
風向きもこちらが風下側なので気付かれにくい。
どうする、ラズ?
「……ッ!」
まだ気がつかれていないことを確認するとラズは一気にかけだした。
その足音で大角ウサギが振り向くが、ラズの剣は既に振り下ろされている。
うまく首をはねることはできなかったが、ラズの剣は頭をたたき割り大角ウサギを絶命させた。
なかなか幸先のいい出だしである。
「よくやったな、ラズ」
ボクもアレクに乗ったままラズに近寄り声をかける。
本当に今回は上出来だ。
「ありがとうございます、アイオライトさん!」
「大声を出すな。こちらの存在をモンスターに知らせるようなものだぞ」
「あ、すみません」
「まあ、いい。解体の手順は覚えているな」
「はい。あ、でも頭部を潰してしまいました」
「頭を潰したことは気にするな。どうせ頭の肉は食べられない。それよりも、早く血抜きをして解体を」
「は、はい」
ボクはアレクと一緒にラズが解体をしている間、周囲を警戒する
モンスターも獣も近くに気配はないが用心するに越したことはないからな。
ラズにはまだ警戒しながらの解体は不可能だろう。
そこは慣れるまでボクたちが代わりに行ってもいいことだ。
まずは、解体の経験を積ませてモンスターからの剥ぎ取りになれさせねば。
「アイオライトさん、処理が終わりました」
「ああ。きちんと内臓は埋めてあるな。それで正解だ」
「内臓は傷を付けないように取り出して捨てるんでしたよね?」
「内臓は傷みが早いからな。基本的には捨てられる。モンスターや獣も内臓が好物なので放置しておくと襲いかかってくることもあるからな。処理は大事だ」
「なるほど。でも、これって罠に使えませんか?」
ふむ、いい質問だ。
答えておくか。
「使えるな。ただ、内臓を罠として使うには周囲のモンスターや獣の生態系を把握しておく必要がある。警戒して近づいてこない種もいるし、興奮して群れで襲ってくることもある。慣れないうちは手を出さないことが賢明だ」
「ふむ。わかりました、ありがとうございます」
きちんと理解してくれたようだな。
説明した甲斐があるというものだ。
この日はこのあと8匹の大角ウサギを狩り、その肉を持ち帰った。
鮮度も下処理も抜群の肉だけあって高値が付いたみたいだな。
この依頼は定期的に貼り出されるらしいし、タイミングが合えばまた受けさせよう。
ラズにも金銭感覚をつけさせなければな。
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